無情の花嫁は、無自覚の寵愛で咲き誇る。


「も、申し訳ありませんでした」

女性たちは女中頭の一声で一斉に私から離れた。
さ、さすが女中頭……。

一声の圧がすごい。
私は解放されてほっと胸を撫で下ろす。

「時雨様がお待ちですよ。楽しんできてくださいな」

私にそう一言声をかけると、深く頭を下げる。ここの人たちは笑わないけど礼儀はしっかりしていた。

他人にあまり深く関わらず、でも冷たく接しない。ある程度の距離感を保ちながらみんな生活していた。

今日は少し距離感が近かった気がするけど私はこの感じがすごく居心地良くて。

心はとても軽かった。

「は、はい。皆さん、ありがとうございました」

私もお礼を言ってから部屋を後にする。
緊張しながら玄関の方に行くと少し洒落た着物を着た時雨様がいた。

そのあまりにも異次元な雰囲気に思わず息を飲む。

この姿を見たら、お姉様はきっと黙ってられないわね。なんてことを考えながら歩いていく。

「準備できたか。行くぞ」

時雨様は私をちらっと見たあとそのまま車に乗り込んでしまった。あまりにもあっさりした態度に今朝のは幻だったのでは?と勘違いしそうになる。

でも……こうして出かけるって事は今朝のことは幻ではないのよね。

不思議な気持ちを持ちながら、私も時雨様の後に着いていく。時雨様や御影家の人についてはまだまだ知らない事ばかり。

そんなことをぼんやりと考えているといつの間にか車が動き出し、ものの数分で帝都にたどり着いてしまった。


「悪いな。じゃあまた夕方に」

「かしこまりました」

車を降りると運転手にそう声をかける時雨様。街行く人は皆時雨様に目を奪われていた。

「ねぇ。あそこにいる殿方、格好いいわね」

「どこかの名家の方かしら。隣にいるのは奥様?」

ヒソヒソと話し声が聞こえ、私は身を縮こめる。時雨様の隣に私がいていいわけないのに。

本当なら私より優秀なお姉様が嫁ぐはずだったのに。

……時雨様に、迷惑……かけてないかしら。

「なんだ。行くぞ」

「は、はい!」

悶々としているとため息と共に声が飛んでくる。私は反射的に返事をして時雨様の半歩後ろを歩き始めた。

こんなみすぼらしい私が隣じゃあ時雨様も嫌よね。
なんて悲観的になっていると。

「……お前は、どこか行きたいとこあるか?」

急に立ち止まり時雨様は私の顔をのぞき込んだ。

「え……っと、あ……」

突然のことで何も言葉が出てこない。