無情の花嫁は、無自覚の寵愛で咲き誇る。


時雨様のあまりにも態度の変わりように困惑していると。

ふわっと、何か暖かなものが頭に触れた。

「本当に……笑わないな。お前の笑った顔、見てみたい」

「し、ぐれ……様?」

何が起こったのか一瞬わからず身体は固まる。時雨様はボソッとつぶやくと私に顔をちかづける。

……私の、笑った顔を見てみたい……?
本当にそんなこと思ってくださってるの?

時雨様の行動がわからなくて疑うことしかできない自分の気持ち。こんな時でさえ私の表情筋は動かない。

動かそうと思っても動かない。

でも、一瞬……ほんの一瞬だけ、時雨様のために笑ってみたい……そう思ってしまった。

「いや、なんでもない。お前、今日は暇か?」

「え……は、はい」

「なら帝都へ出かける。準備しとけ」

数秒見つめあったあと。
時雨様はパッと目を逸らし、それだけ話して廊下の奥へと消えていった。

な、なんだったのだろうか今の時間は。
時雨様があんなことを言うなんて。噂とは大違いの態度だったような。

「帝都に出かけるって、言われたわね」

なんだか気恥しい気持ちが湧き上がってくる。その気持ちを誤魔化すように時雨様が消えた廊下の奥を見つめた。

***

「皐月様、お似合いですよ」

「あ、ありがとう、ございます。すみません。わざわざこんな格好をしてもらって……」

あれから数時間後。
すっかり日も登ったお昼時。

私は自分の部屋で、昨日案内してくれた女性と話をしていた。

帝都に出かける予定ができたと話したら女性は意気揚々と私を部屋に連れ込み、気づいたら洒落た着物を来ていた。

何がなんだかわからぬまま突っ立っているといつの間にか部屋には複数人の女中の方がいて、あれよこれよと手を加えられていた。

「とんでもないです。あの時雨様が女性を帝都に誘うなんて……。珍しくてみんなも興味津々なんです」

「そうですよ。あの時雨様を落とすなんてどういう技を使ったんですか?是非お話聞かせてくださいな!」

「お、落とす……。いやいや!別にそんな……」

一気に質問攻めにされて何も答えられない。こんなふうに他人と気楽に話をしたのはいつぶりだろうか。

ここに来て、色んなことが初めてで。

戸惑うことしか出来なかった。

「ほらほら、皆さん花嫁様が困ってますよ。それに、時雨様がお待ちです。解放してやってください」

ハッとして顔をあげるとそこには女中頭が真顔でみんなを注意していた。