無情の花嫁は、無自覚の寵愛で咲き誇る。


御影家に来て一晩が経過した。
夜が明け、朝日が登り始めた頃。

私は自然と目が覚めた。

「……良く、眠れたわ」

慣れない場所で寝たというのに何故か身体はすっきりしていて、いつもより軽く感じる。

雲龍家にいた頃はなかなか寝付けなくて困っていたというのに。

不思議に思いながら朝の支度を始めた。
だけどふと思う。

……私は御影家で何をしたらいいのかしら。

今まではお姉様たちよりも早く起きて仕事の準備をしてきたのだけど、ここに嫁いできたのだ。

嫁が何も分からないこの家で仕事をする訳にもいかない。
……どうしようか。

時雨様よりも遅く朝食会場に行く訳には行かないし。
とりあえず部屋からでてみようか。

悩んだ末、一旦部屋から出ることにした。

今まで雲龍家では感じたことの無いこの軽い気持ち。一体なんなんだろう。
お姉様立ちから解放されたということに喜びを感じているのだろうか。

自分の今の気持ちはよく分からない。

「……お前、ここで何をしている」

廊下を忍足で歩いていると後ろから声をかけられ、ビクッと身体を震わせる。

「あ……し、時雨様。お、おはようございます。あの……勝手に、申し訳ございません」

振り返ると時雨様が仁王立ちで私を睨みつけていた。その迫力に思わず言葉が反射的に出てしまう。

……しまった。ぶたれる……!

「別に謝れとは言ってない。なんだ、眠れなかったのか?」

私が勝手な行動をしたというのに時雨様はため息を着いただけで、私に何かしてくるということはなかった。

お姉様とは違った対応に戸惑いながら、そっと顔をあげる。

「い、いえ……眠れました。ただ、癖で早く起きてしまっただけです」

誰よりも早く起きないといけない。
今までの暮らしの癖は、そう簡単には抜けない。

ここに来て早々、変な女と思われたかな。
時雨様にそう思われるのなんか嫌だな。

今、私……なんてこと思ったの。

「そうか。なら良かった。昨日はあんな態度とってすまなかった。親の勝手な契約婚で不貞腐れていた。お前はここで自由に暮らしていいからな」

「……え?」

時雨様の言葉に思わず目を疑う。
まさか謝罪の言葉を聞くとは思わなかった。

昨日はあれだけ敵視されていたというのに今は全然そんな感じはしない。
一晩たっただけで人はこんなにも変わるものだろうか。

よく分からない。