無情の花嫁は、無自覚の寵愛で咲き誇る。


中にいたのは少し長めの黒髪に、細い目、色白で着物のよく似合う男性だった。
彼は私を見ると異物を見るように全身を隈なく眺める。

私もそっと顔を上げ、彼を見た。
どこかで見た事あるような……。でも、どこで会ったか覚えてない。

「……貴様、本当に雲龍家の人間か?」

「は、はい。雲龍皐月です。お父様から話は聞いてると思いますが、私は次女です。お姉様は諸事情により縁談を断り……」

「そんな話は聞いてない」

お互い見つめあったあと変な質問をされて驚いた。一応名前は名乗ったはずなのに雲龍家の人間か聞くなんて。

この方は余程私に興味無いのだろうか。

「そう、ですか」

「……雲龍家の人間なら、なぜあの時、そう言わなかった。なぜ、私に嘘を着いた」

気まずい沈黙の後、彼は私を見下すような視線で不思議な質問をする。
私はその質問に首をかしげた。

「あの時……?私は、時雨様にあったことありませんよ?」

記憶にないことを聞かれ、若干イラッとしてしまった。見覚えのある顔だなと思ったけどどこかであった訳ではない。

「あるだろう。ほら、2日前の帝都で。お前は雲龍家の女中じゃなかったのか?」

彼……時雨様にそう言われ、あの時の記憶が何故か一瞬にして蘇った。確かに……あの時、時雨様に会った。

あの時はお姉様の買い物に付き添っていたのだ。久しぶりの街で、見知らぬ男性に声をかけられた。

それが、時雨様だったとは。
なんで忘れていたのだろう。

「も、申し訳ありませんでした。たしかに2日前、時雨様にお会いしています。あの時は……その、」

どう言い訳しような悩んだ。
家の決まり……というかお姉様に言われて自分の名前を言えないとはいえない。

そうしたら雲龍家の名を汚してしまう。

「まぁ、いい。とりあえずお前は部屋にいけ。今後のことはまた話をする」

黙り込んでいると時雨様は痺れを切らしたようにまた机に体を戻した。私はそのことにほっとしつつ、頭を下げて部屋を出る。

「……でも、あの時お姉様異能を使ったわよね?なぜ、私のことや異能がかかる前のことを覚えてるのかしら」

部屋から出てすぐ、ふとそんなことを思う。あの日はお姉様方異能を使った日。時雨様に向かって異能を使ったのになぜ覚えているのだろう。

本来なら、同じ雲龍家の人間しかその時の記憶は残っていないはず。

……まさかお姉様の異能は失敗していた?