限界オタクは推しの幸せを目指したい!!

「神楽様ーー!!!! やだよぉー!!
 ねぇ頼むから嘘だと言ってよ神様仏様作者様……
 読者ランキングでトップ5には入る超人気キャラなんですよ? 温情とかないんですかぁ……??」



 そんな言葉を発しながら、漫画本を握り締めて泣き叫んでいる少女。
 それこそ、私、水上(みずかみ)神酒(みき)でございます。以後(?)お見知り置きを。

 いや、狂ってるだとか変な奴だとか言わないでほしくてですね。
 だって最推しが亡くなられたのだから。当たり前では??

 最推しとは人生の祖。我々のゴッドファザー。
 あの方がいらっしゃるから私がいる。
 私の血肉は全て推しに捧げるもの。

 それが全オタクの思考なのですよ。


 ……え、そうだよね? 
 私だけだと私が狂人みたいに見えるし、
 みんなそうだよね?

 そうだと信じたいんだけど??(※違います)

 さてさて、そんな私が読んでいるのは恋愛漫画『神妖愛戦線(しんようらぶせんせん)!』、通称『かみらぶ!』

 『かみらぶ!』は日本をモチーフにした和風ファンタジー作品。
 ストーリーは大まかに——


 敵対し合う神の世界・神界と、妖怪の世界・妖界。
 そして双方の世界から恩恵を受ける中立者、人間界。
 この三つの世界により成り立っていた。

 主人公でありヒロインの御籤(みくし)(あや)は、この二つの世界の争いを終わらせるために人間界から派遣された巫女。

 人類でも類を見ないほどの神術や妖術に対する体制を持っていた為、人類の代表として二つの種族の仲介をするつもりが、なんと妖怪の王、蛇芭(じゃばら)神楽(かぐら)に一目惚れされ、結果的に世界を滅ぼされかける事態に……

 絶望する妖、そんな時に手を差し伸べてくれたのが、神の代表、須佐之男命(すさのおのみこと)こと、スサノオだった——


 というあらすじである。
 どうしてこんな簡単にあらすじが出てくるのかって? そんなの、オタクはいつでも作品を布教できるように準備をしているからですよ!

 ストーリーだけ聞くと痴情のもつれみたいに見えてしまうが、漫画もストーリーも本当に名作なのです。
 クオリティの高いバトルシーンと、甘々な恋愛シーン、はたまた敵となるキャラクターの過去編など、作品内でのギャップや温度差が特徴で、ゲーム化やアニメ化もした超大人気作品なのだ!

 そして私の最推しこそ、この作品のラスボス枠でもある、蛇芭神楽……神楽様である!! 様をつけたまえ!!

 今読破して私を発狂させた原因こそ、本日発売された最新巻かつ最終巻。いやーめでたい!


 ラスボスである神楽様を封印し、妖怪は神と和解の道を進む。平和になった世界で、妖とスサノオは婚姻の式を挙げる。

『何があろうと、二人でこの世界を守ろう』

そう約束する——


 というお話。
 ザ・王道のハッピーエンドだし、いい終わり方だとは思う。でも! それでも!!!!



「それはないだろぉ……」



 神楽様が一ミリも報われていないじゃない!!

 神楽様は愛に飢えたお方だ。
 妖に惹かれたのも、妖が分け隔てなく接してくれたからであって、少なくとも神楽様は一心に妖のことを愛していたのに!!

 このエンドはないよ!
 私にとってはバッドエンドもいいところだよ!!



「神楽様〜……
 私がいたら、神楽様を幸せにできるのに!!
 何があろうと幸せにするのにー!!!!」



 推しの死では学校休めませんか? これは最早忌引きでは? 違う? そうですか……
 では神楽様がハッピーエンドを迎えられる未来はありますか? えっない? そうですか……

 もうこんな世界懲り懲りだー!!

 神楽様の死亡を受け入れられず、漫画本を仕舞ってからベッドに飛び込む。
 もうやだ不貞寝する!!!!



「神楽さまぁ……」



 いつも私を受け止めてくれる柔らかな毛布に包み込まれれば、ふわふわと夢見心地になる。



『……俺を、愛してくれ』



 眠りにつく寸前、救いを求める様な、そんな神楽様のお声を聞いた気がした。



***



「あれ、もう朝……?」



 部屋に入り込んできた明るい太陽の光で目が覚める。カーテンいつのまに開けのか。

 というか、結局ご飯も食べずに朝まで寝ちゃった! 宿題もやってない! 小テストとかあったら終わりじゃん、最悪……

 そんなことを思いながら部屋を軽く見回す。
 ぼんやりとした頭をだんだんと覚ませば、ある重大な一つのことに気がついた。



「え、ここどこ……????」



 周りを見れば、ベッドだった筈の寝具は布団になっているし、私が来ている服は制服から着物になっている。

 部屋も洋室から畳の馬鹿広い和室になっているし、私の家にこんな場所はない!!



「つまり誘拐と?」



 知り合いにもこんなオシャレなスペースが家にある人はいないし、本当に心当たりがない。

 でも誘拐って、なんか地下牢みたいな場所に鎖とかつけて閉じ込められるんじゃないの?!(偏見)
 ここ結構高級な旅館みたいな感じだし、着てる服も凄く綺麗だから絶対お高い。てかもしかしなくてもこれって絹では……?



「少なくとも、どこなのここは?!?!」

「あの……お嬢様?」

「誰?!」



 気づいたら、後ろに女の人が立っていた。

 恥ずかしい! 叫んでる所見られちゃったよ……ん? あれ今この人、『お嬢様』って言った?
 私のことじゃないよね?



「あの、お嬢様って誰ですかね……?」

「な、何を仰っているのでしょう?
 貴方様は水上家のご令嬢、神酒お嬢様では……?」

「水上家? 神酒お嬢様?
 ちょっとよくわからないんですが……」

「そんな、熱のせいで記憶が
 混濁しているのでしょうか……」

「ね、熱……?」



 私、熱なんて出したっけ?

 昨日も普通に学校に行って……
 あれ?



「箏、算盤そろばん、舞踊
 そんなの、やったことないのに、知識がある……」

「え、お、お嬢様? どうかいたしたのですか?」

「頭が……」

「お嬢様?!?!」



 知らない情報が頭の中に入ってきて、頭が痛い。一気に英単語を詰め込んだ時みたいだ。
 ああ、いったい私、どうなってしまったの?



***



「だ、大丈夫でしょうか……?」

「ええ、まぁ、それなりに」



 しばらく経って、ようやく整理し終わった頭で会話をする。



「私の名前は水上神酒で、水上家の長女。
 原因不明の高熱により、しばらく眠り続けていた……
 ですよね?」

「え、ええそうですが……先ほどもそうでしたが、まだ熱が下がりきっていないのかもしれませんね。
 ああどうしましょう、今日は蛇芭家に行かなければならないと言うのに……」



 蛇芭家って確か、私達を守ってくれてる偉い一族。そして、私達の仕えている主。

 ……え、蛇芭って言った?



「蛇芭神楽様?」

「あら、ご存知でございましたか?
 蛇芭神楽様の教育係としての、初顔合わせでございますよ」



 蛇芭神楽様、八岐大蛇、妖怪……まさか!!

 壁に駆け寄り、窓を開け放つ。
 そこから見える景色には、蛇芭家のお屋敷も。

 “和”を基調としたその外見は、正に前世で私が幾度となく眺めてきた、神楽様の生家。



「……『かみらぶ!』だここ!!!!!!」

「なんの話でございますか?!?!」



 水上神酒、14歳。

 妖怪として、大好きな推しのいる世界、『かみらぶ!』に転生してしまった様です。



「なるほど、つまり神楽様を幸せにしろと」



 今世の目標、決めました。