明けない夜も、君のそばにいる。

「それでね、菜花(さな)さん。私、ミサンガを作ったんです」
「ミサンガ?」
「あら、ご存知ない?ミサンガよ、ミサンガ。……これ」
「ああ、見たことはある」
 私たちは、お庭でお茶会をしていた。
「お揃いよ、これ」
「ありがとう、月璃(るり)さん」
 手首につける。
 月璃(るり)さんは、手先が器用だ。
「……あれ、海衣(かい)さまと、王太子さまじゃない?」
「ほんとだ……」
 お屋敷の中の廊下を歩いている。
 どうして、二人が?
「……追いかけてみる?」
「…………うん」
 なんとなく、嫌な予感がした。
 きっとそれは、月璃(るり)さんも一緒だったんだろう。
「裏庭……?」
 裏庭には、遥流(はる)さまと、海衣(かい)さんと……。
奏雨(そう)さんと陸紅(りく)さんね。海衣(かい)さまの側近よ」
 それって、大丈夫なの?
「……あの二人、熱狂的な海衣(かい)さま信者なの」
「お前なんて、いなければ良かったのに!」
 ドクンッ!
 海衣(かい)さんが、遥流(はる)さまを、突き飛ばす。
「……王太子さま…………」
「死ねよ!」
 側近の二人が、遥流(はる)さまを蹴っている。
 ひどい……。
 いくら遥流(はる)さまが気に食わないからって、こんなこと……。
「……あーあ。なんでこんなやつが王太子なんだよ。ありえねぇー」
 遥流(はる)さまは、泥だらけになっていた。
「………菜花(さな)さん。王太子さまの側に行ってあげて。……私じゃ、ダメだから……。私、お茶会の片付けしてくるね」
 『私じゃ、ダメだから』と言った月璃(るり)さんは、少し悲しそうだった。
 お庭に戻っていく月璃(るり)さん。
 ……もし、拒否されたらどうしよう。
 そう思ってしまう。
 でも……。
 『……菜花(さな)さんなら、王太子さまを救えるかもしれない、って、王太子さまの婚約話を聞いた時に思ったの』
 月璃(るり)さんは、私を信じてくれている。
 私なら、遥流(はる)さまを救えるかもしれない、と……。
 それに、私にも分かる。
 誰かに虐げられる気持ちは。
 苦しくて、誰かに助けて欲しくて、でも誰も助けてくれなくて……。
 いつの間にか、助けてもらうことを諦めてしまって。
 ……でも、それでも、私には、ずっと芹惺(せい)がいてくれた。
 きっと、遥流(はる)さまにも、結明(ゆめ)さんがいた。
 でも、結明(ゆめ)さんは、もういない。
 ……白神に行ってしまったから。
 芹惺(せい)も、白神で独りぼっちだ。
 最近は、嫌がらせが収まってきてはいたけれど、それでも、まだ汐桜(しお)皇后はいる。
 ……だけど、きっと、結明(ゆめ)さんは、芹惺(せい)に寄り添ってくれているよね。
 ……私が、今、遥流(はる)さまの側に行かなかったら、遥流(はる)さまは、ずっと、独り?
 そんなの、嫌だ……。
遥流(はる)さま……!」
「さ、な……?」
 私を見つめる瞳は、どこか寂しそうで、助けを求めていて、でも、もう諦めている。
「……遥流(はる)さま。大丈夫です」
 『大丈夫だよ、姉上』
 芹惺(せい)に貰った言葉を思い出す。
「私がずっと……」
 『俺がずっと……』
「ずっと、そばにいます」
 『姉上のそばにいるよ』
「私は、遥流(はる)さまのそばにずっといます。何があっても、味方です」
 『俺が、姉上を守るよ』
 助けを求めていた彼の瞳から、大粒の涙が溢れだす。
「さ、な……。ごめ、ん。俺……」
 ずっと、傷ついていたんだろう。
 苦しんでいたんだろう。
「こん、な……。俺、で……」
 遥流(はる)さまを抱きしめる。
 幼い子どものように泣きじゃくる遥流(はる)さま。
 私は、彼が泣き止むまで、ずっとそばにいた。