太陽と狐は「 」をする

***



「そういえば、先ほどの方はお知り合いなの?」



 灯は葵に剥がされた布を被り直してから、疑問に思っていたことを聞く。かなり親しげに話していたようだし、友人なのだろうかとも思っている。
 他の神子や家の人物以外の人と関わるのはほぼ初めてのため、可能ならば仲良くしてみたいと思ったのだ。……それと、性別についての確証が欲しかった。



「ん、あー、浅葱のこと言うとる?」

「ええ」



 名前は浅葱というようだ。



「紛らわしい見た目しとるやろアイツ。あれでもれっきとした男やからセクハラされたらぶん殴ってええからな」

「流石にそこまではしないわ……! でも男の人なのね。勘違いしちゃった」

「あるあるやからしゃーないわ。昔っからあんなんやから」

「そうなの?」

「趣味やって」



 なるほど……と灯は納得する。趣味ならしょうがない。人の趣味を否定する権利は他人にないのだから。
 


「他に何か……」

「お? なんや、俺に興味あるん、おじょーさん?」

「うわぁ?!」

「なんでおるんやお前!!」



 噂をすればなんとやら。
 けらけらと笑いながら現れたのは、白銀の長髪に瑠璃色の瞳、華やかな女物の着物を着た、一目見れば誰もが美女であると称えるような風貌。
 つまり、浅葱その人であった。

 幸運なことに灯は頭の布を剥ぎ取られることはなく葵の影に隠れたので、正体を見破られたわけではない。ただ、いきなり後ろに出てこられると心臓に悪い。



「よっ、おひさしゅー。ウチは弧怜(コレイ)浅葱(アサギ)。そこの放浪狐とは腐れ縁やで。友人とか言わんといてや?」

「そ、そうなんですか……」

「そーそー!」

「んで、そないな腐れ縁はなにしに来たんや? 何もないなら早よ帰れ」

「葵、ウチは今アンタと話してへん。黙っとれや」

「こんの野郎……!!」



 制止する葵を流れるように無視して煽りながら、浅葱は灯の前に立つ。
 外見は女性のように見えても背丈は確かに男性のそれで、灯が布を被っていて視界が狭いのもあるかもしれないが妙な威圧感があった。



「こんにちは、おじょーさん。葵から話は聞いとるで。こんなとこに置いてかれて大変やなぁ」

「……で、も、見たことないものも見れて、楽しいです」

「ほーん。葵に変なことされてへん?」

「大丈夫です、助かってます」

「なら良かったわ。この国に長居するのあんまよくないし、早よ帰りぃや」

「ありがとう、ございます!」



 美しい笑みを浮かべた浅葱に灯も警戒心が薄れて小さく笑顔を向ける。

 ふと、似ているなと思った。
 最初は少し恐ろしいし底が見えず、どこか警戒してしまう。でも実際に関わってみれば、思いやりがあって自由で、面倒見がいい、とても優しい人になる。
 そういうところが、葵と浅葱は似ているのだ。



「……優しいお前なんか凄い気色悪ぃわ」

「よし葵テメェちょい表出ろや」

「上等やわ。ここで俺が勝てば勝ち越しやからな」

「勝てると思うんやないわ」

「ほぉん?」



 腐れ縁の間で喧嘩が勃発してることに灯が気づくのは、この後すぐのことである。