太陽と狐は「 」をする

 さわさわと木の葉が擦れる音が聞こえる。川のせせらぎ、小鳥の鳴き声。空から降りる木漏れ日が、まるで光の祝福のように降り注いだ。
 灯りは目を瞬かせ、物珍しそうにあたりを見つめた。
 ここが、日ノ本——

「こっち。こっちや」

 そう言って歩いていく葵を追いかける。
 里の時のようにのように道なき道を草をかき分けつつ進んでいれば、葵がこいこいと手を動かしていることに気がついた。

「座りい」

 指を刺した先にあったのは丸い石。人が座る程度の大きさではあるだろうか。
 石に座るのはいささか行儀が悪いのではないか……一瞬そう思ったが、葵本人も手頃な石に座り込んでいた為、ならそれでいいのだろうと着物をたくし上げて座り込んだ。

「これがどうしたの?」

 葵は思いもよらぬことをする奴だというのは今日の経験から痛いくらいに伝わっていたが、だとしても一体何をするというのか一切つかめず疑問の声を上げる。

「はは、ちょっと前見てみいや」

 少し笑った後首を動かした葵に釣られて、前方に視界を動かす。

「わあ……!」

 目の前にあったのは、とても綺麗な夕日。紅の光とそれを反射してさまざまな色に輝く雲が幻想的な風景を生み出しており、思わず感嘆の声を上げた。
 朝に葵に会ってから、逃げ出して、里に行って、日ノ本へ。よくよく考えてみれば、すでに日が傾いていることも当たり前であろう。

「……考えてみれば、こうやって夕陽を見るの、初めてかもしれない」

「ええっ!?」

 そういえば、と徐に呟けば葵が驚いたような声を上げる。

「だ、だって、この時間は夕餉だったから……朝日は時々見ていたけど、朝以降は誰かが常にそばにいて、こうやってゆっくりするなんて初めて……」

「いやいやいや、珍しすぎるやろそんなん。え、天照家って監獄か何かなん?」

「人の実家を監獄呼ばわりしないで!?」

 冗談だと分かっているが、そう言わずには言われなかった。ツッコミを入れれば、葵はくすくすと笑っている。

「でも、知らなかったからこそ、こうやって見れてよかった」

「……そか。じゃ、明日から気合い入れて観光せなな!」

 日が沈むのを眺めながら、そんな会話を交わす。
 この夕日を、いつまでも忘れないでいよう。灯はそう思った。