***
喧嘩はなんとか収まった。灯が葵を羽交締めにし、必死で引き止めたからである。
その後無理矢理距離を取らせれば二人とも頭を冷やしたようで、バツの悪そうな顔をした浅葱に案内されるがまま、里から外つ国・日ノ本への転送装置に向かっていた。
「あの石みたいなやつ。あれが装置や。早よ行き。そのままあっちで知り合い探すんやろ?」
「ん、その予定」
「ほーい。お袋さんにはウチから話つけとくわ。ここに長居するくらいやったら早よ送った方がええやろ」
「どーもー」
「飯奢ってぇや」
「自分で食えー」
「嫌やわ〜」
そんな軽口を叩き合う二人を見て、灯はなんだか、少しだけ、妬ましく感じる。
喧嘩をしたとしても、しばらくしたらそんなことも忘れてふざけ合う。
お互いがお互いを理解しているからこその距離感、口調、雰囲気。生まれてこの方、友達らしい友達も出来たことがないので、そんな経験をしたことがない灯にとって、それがどうしようもなく羨ましかった。
そして、すぐに自分がなんて酷いことを考えているんだろうかと自己嫌悪してしまうのである。
「……」
「ほら、行くで」
「あっ……うん」
気がつけば灯の横には葵が立っていた。浅葱との話が終わったような彼は、ニヤリと笑って灯の腕を掴んで引きよせる。灯はよろよろとバランスを崩しながらも足を動かしてついていく。
「トモちゃん、また変なこと考えとったやろ」
「えっ、いや……」
「まーまー、そんなこと考えるくらいならあっちついて最初に何食べるかとか決めたらええんちゃう?」
「確かに……!」
「ははっ、さ、いこや」
気づけば目の前にあるのは転送装置。わたわたと設定やら何やらをしている葵を横目に後ろを向けば、瑠璃の瞳が柔らかく弧を描いていることに気がつく。
『気をつけろ』なんて言わんばかりのその瞳は、神や妖も関係のない柔らかな浅葱本人の瞳のように感じて。
「ほら準備できたから行くで」
横から声がかかる。
地面に陣が描かれて行き、術が発動し始めている印。
それでも、最後に伝えたいことがあった。
「お世話になりました! 行ってきます!」
「……!」
声を張り上げて浅葱に向かって手を振れば、遠くの瑠璃色が驚いたように見開く。
今まで出したこともないような爽やかで気持ちが良くて暖かい、そんな正に太陽のような笑みを浮かべて、灯は狐の里を去ったのだった。
喧嘩はなんとか収まった。灯が葵を羽交締めにし、必死で引き止めたからである。
その後無理矢理距離を取らせれば二人とも頭を冷やしたようで、バツの悪そうな顔をした浅葱に案内されるがまま、里から外つ国・日ノ本への転送装置に向かっていた。
「あの石みたいなやつ。あれが装置や。早よ行き。そのままあっちで知り合い探すんやろ?」
「ん、その予定」
「ほーい。お袋さんにはウチから話つけとくわ。ここに長居するくらいやったら早よ送った方がええやろ」
「どーもー」
「飯奢ってぇや」
「自分で食えー」
「嫌やわ〜」
そんな軽口を叩き合う二人を見て、灯はなんだか、少しだけ、妬ましく感じる。
喧嘩をしたとしても、しばらくしたらそんなことも忘れてふざけ合う。
お互いがお互いを理解しているからこその距離感、口調、雰囲気。生まれてこの方、友達らしい友達も出来たことがないので、そんな経験をしたことがない灯にとって、それがどうしようもなく羨ましかった。
そして、すぐに自分がなんて酷いことを考えているんだろうかと自己嫌悪してしまうのである。
「……」
「ほら、行くで」
「あっ……うん」
気がつけば灯の横には葵が立っていた。浅葱との話が終わったような彼は、ニヤリと笑って灯の腕を掴んで引きよせる。灯はよろよろとバランスを崩しながらも足を動かしてついていく。
「トモちゃん、また変なこと考えとったやろ」
「えっ、いや……」
「まーまー、そんなこと考えるくらいならあっちついて最初に何食べるかとか決めたらええんちゃう?」
「確かに……!」
「ははっ、さ、いこや」
気づけば目の前にあるのは転送装置。わたわたと設定やら何やらをしている葵を横目に後ろを向けば、瑠璃の瞳が柔らかく弧を描いていることに気がつく。
『気をつけろ』なんて言わんばかりのその瞳は、神や妖も関係のない柔らかな浅葱本人の瞳のように感じて。
「ほら準備できたから行くで」
横から声がかかる。
地面に陣が描かれて行き、術が発動し始めている印。
それでも、最後に伝えたいことがあった。
「お世話になりました! 行ってきます!」
「……!」
声を張り上げて浅葱に向かって手を振れば、遠くの瑠璃色が驚いたように見開く。
今まで出したこともないような爽やかで気持ちが良くて暖かい、そんな正に太陽のような笑みを浮かべて、灯は狐の里を去ったのだった。

