詩歌の額の冷却シートを交換し、枕元にペットボトルの水を置く。
まだ微熱のある歌の首筋に触れる。
鎖が巻かれた痛々しい手を、強く握った。
「すぐに、外してやるから。少しだけ待っていてくれ」
詩歌の手に御守りを握らせる。
布団をしっかりかけて、頬を撫でた。
「ちゃんと守れなくて、ごめん」
自分は王子様でもヒーローでもない。
スマートに助け出すことなんか、できないけれど。
今の自分ができることを精一杯やる。
(必ず、取り戻すから)
指先で撫でた詩歌の頬に、こっそりと口付けた。
流れ込んだ歌の熱を抱きしめる。
悠梧との交換日記を手にすると、穏佳は部屋を出て鍵を閉めた。
日曜日、日が陰り始めた夕方の校舎に人影はない。
施錠時間ギリギリで滑り込んだ校内を、穏佳は忍び足で歩いた。
(夕食までには戻れそうにないな。消灯までに戻れればいいけど)
曲がりなりにも寮長が点呼にいないわけにはいかない。
それ以上に、あの状態の詩歌を長い時間、一人にしたくない。
穏佳は図書室に急いだ。
「さすがに誰もいないよな」
図書室の扉に手をかける。鍵は開いていた。
しかし、電気が消えて暗い。勿論、人影もない。
(悠梧が鍵を開けたのか。見つけて欲しいのか、欲しくないのか、どっちなんだ)
電気をつけると、穏佳は呆然と立ち尽くした。
「この中の、どこから探せばいいんだ?」
本棚も本も腐るほどあるし、ヒントが何もない。
(悠梧の欠片って……紙の切れ端に、言葉が書いてあったよな。あれを、この中から?)
あまりに途方もない。
穏佳は今までの七不思議を思い返してみた。
「待て……今まで全部、詩歌が切れ端を掴み取ってた」
鏡も大講堂も、理科準備室も、屋上も総て。
詩歌が影の中から欠片を探し当てていた。
「そりゃ、そうか。悠梧に選ばれたのは、詩歌だもんな」
そんな中、今は穏佳一人だ。
今までは、その場所に行ったら自然と影が現れた。
穏佳は周囲を見回した。
怪しい影なんか、見当たらない。
「電気を消したら出てくるとか、そういうことではない、よな」
図書室の扉を開けた瞬間は暗かったが、何もいなかった。
念のため、電気を消してみるが、特に何もない。
もう一度、電気をつける。やっぱり何もない。
穏佳は頭を抱えた。
(この状況で、ヒントなしって。悠梧の奴、詩歌を返す気がないな)
本は沈黙している。
ページは捲れるが、文字は浮かんでこない。
(ヒントが欲しいなんて書いたら、逆に何をされるかわからないしな)
今の悠梧では、弱みに付け込んでくる危険すらある。
最悪、二人とも囚われる未来しかない。
穏佳は記憶を遡って、何とか策を捻り出した。
「こういう時は、初心にかえるんだ。えっと……七不思議の五つ目は、図書室の増える蔵書、だったよな。本が増えるんだよな」
悠梧の交換日記のように、関係ない本がいつの間にか増えて紛れているのだろうか。
「本が増えているか、探すのか? この中から?」
ただでさえ広い明倫学園の図書室から、たった一冊の異物を探す。
砂漠でダイヤを探すような作業だ。
穏佳は途方に暮れた。
「いや、やるしかない。詩歌の命がかかっているんだ」
穏佳は自分を奮い立たせた。
「端の本棚から、順に探すか。あとは……」
呟いて、詩歌の言葉を思い出した。
『研究している人のサイトとか、ないかな』
悠梧に止められていたから、ここまで七不思議研究家のサイトを調べはしなかった。
穏佳自身も、眉唾な憶測めいた情報に踊らされるより悠梧の指示に従うのがいいと思っていたから、無為に調べなかった。
(でも、今は。悠梧が情報を絞り始めてる。参考にはなるかもしれない)
穏佳はスマホを取り出した。
「嘘だろ。圏外って、そんなわけ」
明倫学園の敷地内でスマホが圏外になる場所なんか、開かずの寮室くらいだ。
(開かずの寮室……そうか。今はこの図書室も悠梧のテリトリーなんだ)
改めて怪異の恐ろしさに、ぞっとする。
「自分で考えて、探すしかない、か」
穏佳は腹を括った。
悠梧の交換日記に関わってからのことを最初から思い返してみた。
目を閉じで、自分の記憶を辿る。
(まずは、この日記だ。詩歌は、この図書室で日記を見つけた。どこの棚って言っていたっけ……)
思い出して、静かは目を開いた。
「……そうだ、世界の文学の棚だ!」
確か詩歌は、悠梧の交換日記を一番奥の本棚で見つけたと言っていた。
穏佳は交換日記を握り締めると、一番奥の、世界の文学の本棚に走った。
「選ばれたのが俺じゃなくても、ヒントがなくても、見つけてやる!」
穏佳は図書室の最奥に、足を踏み入れた。
まだ微熱のある歌の首筋に触れる。
鎖が巻かれた痛々しい手を、強く握った。
「すぐに、外してやるから。少しだけ待っていてくれ」
詩歌の手に御守りを握らせる。
布団をしっかりかけて、頬を撫でた。
「ちゃんと守れなくて、ごめん」
自分は王子様でもヒーローでもない。
スマートに助け出すことなんか、できないけれど。
今の自分ができることを精一杯やる。
(必ず、取り戻すから)
指先で撫でた詩歌の頬に、こっそりと口付けた。
流れ込んだ歌の熱を抱きしめる。
悠梧との交換日記を手にすると、穏佳は部屋を出て鍵を閉めた。
日曜日、日が陰り始めた夕方の校舎に人影はない。
施錠時間ギリギリで滑り込んだ校内を、穏佳は忍び足で歩いた。
(夕食までには戻れそうにないな。消灯までに戻れればいいけど)
曲がりなりにも寮長が点呼にいないわけにはいかない。
それ以上に、あの状態の詩歌を長い時間、一人にしたくない。
穏佳は図書室に急いだ。
「さすがに誰もいないよな」
図書室の扉に手をかける。鍵は開いていた。
しかし、電気が消えて暗い。勿論、人影もない。
(悠梧が鍵を開けたのか。見つけて欲しいのか、欲しくないのか、どっちなんだ)
電気をつけると、穏佳は呆然と立ち尽くした。
「この中の、どこから探せばいいんだ?」
本棚も本も腐るほどあるし、ヒントが何もない。
(悠梧の欠片って……紙の切れ端に、言葉が書いてあったよな。あれを、この中から?)
あまりに途方もない。
穏佳は今までの七不思議を思い返してみた。
「待て……今まで全部、詩歌が切れ端を掴み取ってた」
鏡も大講堂も、理科準備室も、屋上も総て。
詩歌が影の中から欠片を探し当てていた。
「そりゃ、そうか。悠梧に選ばれたのは、詩歌だもんな」
そんな中、今は穏佳一人だ。
今までは、その場所に行ったら自然と影が現れた。
穏佳は周囲を見回した。
怪しい影なんか、見当たらない。
「電気を消したら出てくるとか、そういうことではない、よな」
図書室の扉を開けた瞬間は暗かったが、何もいなかった。
念のため、電気を消してみるが、特に何もない。
もう一度、電気をつける。やっぱり何もない。
穏佳は頭を抱えた。
(この状況で、ヒントなしって。悠梧の奴、詩歌を返す気がないな)
本は沈黙している。
ページは捲れるが、文字は浮かんでこない。
(ヒントが欲しいなんて書いたら、逆に何をされるかわからないしな)
今の悠梧では、弱みに付け込んでくる危険すらある。
最悪、二人とも囚われる未来しかない。
穏佳は記憶を遡って、何とか策を捻り出した。
「こういう時は、初心にかえるんだ。えっと……七不思議の五つ目は、図書室の増える蔵書、だったよな。本が増えるんだよな」
悠梧の交換日記のように、関係ない本がいつの間にか増えて紛れているのだろうか。
「本が増えているか、探すのか? この中から?」
ただでさえ広い明倫学園の図書室から、たった一冊の異物を探す。
砂漠でダイヤを探すような作業だ。
穏佳は途方に暮れた。
「いや、やるしかない。詩歌の命がかかっているんだ」
穏佳は自分を奮い立たせた。
「端の本棚から、順に探すか。あとは……」
呟いて、詩歌の言葉を思い出した。
『研究している人のサイトとか、ないかな』
悠梧に止められていたから、ここまで七不思議研究家のサイトを調べはしなかった。
穏佳自身も、眉唾な憶測めいた情報に踊らされるより悠梧の指示に従うのがいいと思っていたから、無為に調べなかった。
(でも、今は。悠梧が情報を絞り始めてる。参考にはなるかもしれない)
穏佳はスマホを取り出した。
「嘘だろ。圏外って、そんなわけ」
明倫学園の敷地内でスマホが圏外になる場所なんか、開かずの寮室くらいだ。
(開かずの寮室……そうか。今はこの図書室も悠梧のテリトリーなんだ)
改めて怪異の恐ろしさに、ぞっとする。
「自分で考えて、探すしかない、か」
穏佳は腹を括った。
悠梧の交換日記に関わってからのことを最初から思い返してみた。
目を閉じで、自分の記憶を辿る。
(まずは、この日記だ。詩歌は、この図書室で日記を見つけた。どこの棚って言っていたっけ……)
思い出して、静かは目を開いた。
「……そうだ、世界の文学の棚だ!」
確か詩歌は、悠梧の交換日記を一番奥の本棚で見つけたと言っていた。
穏佳は交換日記を握り締めると、一番奥の、世界の文学の本棚に走った。
「選ばれたのが俺じゃなくても、ヒントがなくても、見つけてやる!」
穏佳は図書室の最奥に、足を踏み入れた。



