「朔、今週の土曜って時間ある?」
ボーリングを終えて駅に向かってる途中、理央がチラシを出してきた。
「これ、入口のとこにあった映画館の割引チラシ。気になってたアニメがあるんだけど、たまには観に行かない?」
そういえばつい最近ショッピングモールの横に映画館ができたばかりだ。気になっていたが、学校帰りは時間がないので行けてなかった。
「じつは来週からしばらく忙しくて木曜日会えそうになくて」
「学校のなにかで?」
「うん。さっき電話きたけど、生徒会の仕事でどうしても抜けられないんだ。だからその前に朔を堪能したくて」
「おれは愛玩動物かよ」
「だって可愛いんだもん」
笑いながらおれの体を引き寄せ、肩口に顔をうずめる。
ここ最近の過剰なスキンシップは苦手だけど、しばらく会えないとなると少し寂しいかも知れない。名残惜しい気持ちで理央の頭を撫でた。
「分かったよ。じゃあ土曜日な」
「うん、約束!」
笑い声が心地いい。なんだか最近変だな、おれ。
「お、映画か。いいよな。新しいところだろ?」
金曜日、映画の話をしていると杉本が食いついてきた。
「オレもこの前アニメ観に行ったけど建物も映像も綺麗で良かったぜ! 音も臨場感あって痺れたよ。ついでにポップコーンの三種類ミックスが最高だった。量が多すぎて二人じゃ食べきれなくて…………あ、やべっ!」
慌てて口を押え、気まずそうに視線をそらした。
映画もポップコーンも初耳だ。
「だれと行ったんだよ?」
「えぇ~? あれオレ、二人なんて言ったか~?」
目が泳いでる。おれには言えない相手ということか。深く追求するつもりはないけど。
「あ、そ、そういえば!! 今月末に西高で文化祭があるけど行くのか!?」
思いっきり話題をそらされた。でも文化祭のことは知らない。
「行くもなにも初めて聞いた」
『生徒会の仕事』というのは文化祭の関係かもしれない。それならそうと言ってくれればいいのに。
「良かったら一緒に行くか? 外部の人間が行くには招待券が必要なんだけど大地に頼めば手配してくれるって言うから。親友くんの学校での様子、見てみたいだろ?」
「理央の……?」
どきっとした。
西高で理央がどんなふうに過ごしているのか……正直とっても知りたい。
「行きたい。須藤くんに頼んでもらってもいいか?」
「もちろん! すぐに連絡しておく!」
「頼む。あ……できればおれが行くこと理央に内緒にして欲しいんだけど」
「おっ、突然行って驚かせてやるんだな! いいぜ、大地にも伝えておく」
杉本はニシシ、といたずらっぽい笑みを浮かべているが、理央を驚かそうなんて思ってない。生徒会で忙しいはずだから邪魔はしたくない。憧れだった西高に行って、理央がどんなふうに過ごしているのか見られればいいのだ。たぶん一生忘れられない思い出になるはずだから。
迎えた土曜日の朝九時、理央とは映画館の入口で待ち合わせした。少し早くに着いて入口で待っていると、次々と人が吸い込まれていった。さすが大人気アニメ映画だ。
街路樹が徐々に色づいてきて、風が冷たい。少し前のまでの息苦しい暑さがウソみたいだ。自販機も「あたたかい」と「つめたい」が半々くらいになってきた。季節が移り変わっていくのだ。おれの心も。
ふと、仲睦まじく手をつないでいるカップルが見えた。指と指を絡める恋人つなぎというやつだ。いいな、あったかそうで。
「さーく! おはよ!」
「ぎゃっ!」
突然後ろから抱きしめられた。理央だ。
「ちょっ、背後からは卑怯だぞ。びっくりしたじゃないか」
「ごめんごめん。私服が可愛かったから思わず」
可愛いもなにも黒のパーカーに灰色のジーンズという普段着だ。理央はシンプルなシャツにゆったりしたパンツを合わせている。銀のネックレスがさりげなくオシャレだ。髪はワックスを使っているのかウエーブ感が強いけど、イケメンだからなんでも似合う。
「じゃ、行こうか」
さりげなく肩を抱かれる。ナチュラルすぎるだろ。
「……」
「あ? ごめんイヤだった?」
「じゃなくて、動きづらいからこっちの方がいい」
右手を出すと理央は驚いたように目をパチパチさせていたが、
「――うん!」
と手をつないでくれた。うん、これでいい。落ち着く。
館内は客でごった返していた。チケットはネットで購入済みだったので、飲み物とポップコーンだけ買って開場待ちの列に並ぶ。
「でもなんで急に映画観ようなんて言い出したんだ?」
「たまたま割引チラシが目に入ったのもあるし、中学までは保護者同伴じゃないと入れなかっただろ? だから高校生になったら一度でいいから自分たちだけで観に来たかったんだ。なんたってデートの定番だし!」
「……いや、デートは好きな人とするものだろ?」
冷静にツッコミを入れると小さくため息をついた。「まぁね、鈍いところも可愛いけどね」とボソボソ呟いている。
「でもまぁ一理あるかもね。だから朔を誘ったんだよ――って言ったらどうする?」
一瞬、真面目な顔になる。
「え……あ……」
おれが硬直しているのを見て相好を崩した。
「前進んでるよ。ほら、行こう!」
ぐいっと手を引っ張るように歩き出した。つないだ指先はビリビリと痺れるように熱く、前をゆく理央の背中はいつもより広く大きく見えた。
ボーリングを終えて駅に向かってる途中、理央がチラシを出してきた。
「これ、入口のとこにあった映画館の割引チラシ。気になってたアニメがあるんだけど、たまには観に行かない?」
そういえばつい最近ショッピングモールの横に映画館ができたばかりだ。気になっていたが、学校帰りは時間がないので行けてなかった。
「じつは来週からしばらく忙しくて木曜日会えそうになくて」
「学校のなにかで?」
「うん。さっき電話きたけど、生徒会の仕事でどうしても抜けられないんだ。だからその前に朔を堪能したくて」
「おれは愛玩動物かよ」
「だって可愛いんだもん」
笑いながらおれの体を引き寄せ、肩口に顔をうずめる。
ここ最近の過剰なスキンシップは苦手だけど、しばらく会えないとなると少し寂しいかも知れない。名残惜しい気持ちで理央の頭を撫でた。
「分かったよ。じゃあ土曜日な」
「うん、約束!」
笑い声が心地いい。なんだか最近変だな、おれ。
「お、映画か。いいよな。新しいところだろ?」
金曜日、映画の話をしていると杉本が食いついてきた。
「オレもこの前アニメ観に行ったけど建物も映像も綺麗で良かったぜ! 音も臨場感あって痺れたよ。ついでにポップコーンの三種類ミックスが最高だった。量が多すぎて二人じゃ食べきれなくて…………あ、やべっ!」
慌てて口を押え、気まずそうに視線をそらした。
映画もポップコーンも初耳だ。
「だれと行ったんだよ?」
「えぇ~? あれオレ、二人なんて言ったか~?」
目が泳いでる。おれには言えない相手ということか。深く追求するつもりはないけど。
「あ、そ、そういえば!! 今月末に西高で文化祭があるけど行くのか!?」
思いっきり話題をそらされた。でも文化祭のことは知らない。
「行くもなにも初めて聞いた」
『生徒会の仕事』というのは文化祭の関係かもしれない。それならそうと言ってくれればいいのに。
「良かったら一緒に行くか? 外部の人間が行くには招待券が必要なんだけど大地に頼めば手配してくれるって言うから。親友くんの学校での様子、見てみたいだろ?」
「理央の……?」
どきっとした。
西高で理央がどんなふうに過ごしているのか……正直とっても知りたい。
「行きたい。須藤くんに頼んでもらってもいいか?」
「もちろん! すぐに連絡しておく!」
「頼む。あ……できればおれが行くこと理央に内緒にして欲しいんだけど」
「おっ、突然行って驚かせてやるんだな! いいぜ、大地にも伝えておく」
杉本はニシシ、といたずらっぽい笑みを浮かべているが、理央を驚かそうなんて思ってない。生徒会で忙しいはずだから邪魔はしたくない。憧れだった西高に行って、理央がどんなふうに過ごしているのか見られればいいのだ。たぶん一生忘れられない思い出になるはずだから。
迎えた土曜日の朝九時、理央とは映画館の入口で待ち合わせした。少し早くに着いて入口で待っていると、次々と人が吸い込まれていった。さすが大人気アニメ映画だ。
街路樹が徐々に色づいてきて、風が冷たい。少し前のまでの息苦しい暑さがウソみたいだ。自販機も「あたたかい」と「つめたい」が半々くらいになってきた。季節が移り変わっていくのだ。おれの心も。
ふと、仲睦まじく手をつないでいるカップルが見えた。指と指を絡める恋人つなぎというやつだ。いいな、あったかそうで。
「さーく! おはよ!」
「ぎゃっ!」
突然後ろから抱きしめられた。理央だ。
「ちょっ、背後からは卑怯だぞ。びっくりしたじゃないか」
「ごめんごめん。私服が可愛かったから思わず」
可愛いもなにも黒のパーカーに灰色のジーンズという普段着だ。理央はシンプルなシャツにゆったりしたパンツを合わせている。銀のネックレスがさりげなくオシャレだ。髪はワックスを使っているのかウエーブ感が強いけど、イケメンだからなんでも似合う。
「じゃ、行こうか」
さりげなく肩を抱かれる。ナチュラルすぎるだろ。
「……」
「あ? ごめんイヤだった?」
「じゃなくて、動きづらいからこっちの方がいい」
右手を出すと理央は驚いたように目をパチパチさせていたが、
「――うん!」
と手をつないでくれた。うん、これでいい。落ち着く。
館内は客でごった返していた。チケットはネットで購入済みだったので、飲み物とポップコーンだけ買って開場待ちの列に並ぶ。
「でもなんで急に映画観ようなんて言い出したんだ?」
「たまたま割引チラシが目に入ったのもあるし、中学までは保護者同伴じゃないと入れなかっただろ? だから高校生になったら一度でいいから自分たちだけで観に来たかったんだ。なんたってデートの定番だし!」
「……いや、デートは好きな人とするものだろ?」
冷静にツッコミを入れると小さくため息をついた。「まぁね、鈍いところも可愛いけどね」とボソボソ呟いている。
「でもまぁ一理あるかもね。だから朔を誘ったんだよ――って言ったらどうする?」
一瞬、真面目な顔になる。
「え……あ……」
おれが硬直しているのを見て相好を崩した。
「前進んでるよ。ほら、行こう!」
ぐいっと手を引っ張るように歩き出した。つないだ指先はビリビリと痺れるように熱く、前をゆく理央の背中はいつもより広く大きく見えた。
