別々の高校に進学した元親友とフードコートで再会してから様子がおかしいのだが…

「……落ち着いた?」
「ん。ありがと、理央」
 涙が涸れるまで泣き続けたせいで、すっかり体が軽くなった。
 ずびずびと鼻をすすりながらも、まだ理央の腕の中にいる。大きくて、あったかくて、気持ちいい。ずっとこうやってギュッとされたかったって本能が言ってる。
「あのさ、理央」
「ん?」
「テスト、とっくに終わってたんだって? しかも学年二位。おれの手伝いなんて必要なかったじゃないか」
 間が空いた。
 理央は明後日の方向を見て頬を膨らませている。都合が悪い時にこういう顔をする。
「ウソついておれに会ってたってことか?」
「……そうだよ。ごめん」
 観念したようにため息をついた。それでもおれを抱く腕は離さない。
「朔と会う口実が欲しかったんだ。学年二位はたまたま……って言いたいけど、すげぇ頑張った。いい点とったら親に小遣い増やしてもらう約束だったから、朔と会うために必死だったよ」
 なるほど、毎週余裕の表情で提供されていた飲食物は、理央が懸命に勝ち取った成果だったのだ。
「正直に言ってくれれば良かったのに」
「朔のことだから理由がなければ会ってくれないって思ってて言えなかったんだ。……だって、駅や学校近くやいつも行ってたお気に入りの場所をくまなく歩いても会えなかった。これは避けられてるなって、薄々感じていたよ。本当は家まで押しかけたかったけど、さすがに嫌われると思ってやめたんだ。朔に嫌われたら、俺、生きていけない」
 大げさだな、と笑ってやりたかったけど、おれも理央に嫌われるのが怖かった。
 同じなんだ、おれたちは。
「怖かったんだ、やっと掴んだ繋がりを手放すのが。メールも電話もそっけないし直接会うこともできない。朔の存在がどんどん遠くなる気がして不安でたまらなかった。置いて行かないで欲しかった。俺の知らない遠い世界の人にならないで欲しかった。どんな手を使っても、朔のことだけは諦めたくなかったんだ」
 肩に顔をうずめて、ぎゅっ、と痛いくらいに抱きしめる。
 絞り出すような声はかすかに震えていて、こいつにも不安なことがあるのだと意外に思った。
 でもおれも同じだ。理央の隣に自分がいないことが信じられなくて。別の誰かと笑っているところを想像したくなくて。現実を見るのが怖くて逃げていたんだ。
「――ありがとう、理央」
 理央の背中に腕を回し、ぽんぽん、と撫でた。さっきとは逆の立場で。
「おれはずっとここにいる。どこにもいかない」
 おれの前には理央がいる。あの頃よりずっと大人びているけど、あの頃と同じ気持ちのまま傍にいようとしてくれる理央がいる。別々の高校に進学しなければ気づかないままだっただろう。
 ありがとう。理央。おれの親友のままでいてくれて。
 ありがとう――。

「……っていうかそろそろ離せよ、こんなところで男同士が抱き合ってたら駐車場使う人が気まずいだろ」
「はは、気づいちゃった? もう少しいけると思ったのに」
 肩口で笑われると振動が伝わってくる。
「でも安心して。ここは従業員用の駐車場で人の出入りは少ないから。まぁ監視カメラにはばっちり撮られているだろうけどね」
 そこで初めて天井のカメラに気づいた。
「ちょっ! 早く言えよ!」
「いいじゃん今さら。監視の人もきっと見て見ぬ振りしてくれるよ」
 必死に振りほどこうとしても、背中に回された腕が強くて抜け出せない。それどころか頭の後ろに手を伸ばして更に深く抱きしめてくる。
「もっと俺に甘えてよ。さっきみたいに」
「うっ――どうなっても知らないからな!」
 こうなったらもう開き直って理央の制服を涙でぐしゃぐしゃにしてやろうと思った。