[Side Kanon]
タクシーの窓に映る自分の顔が、次々と流れていく街灯に照らされるたび、金色の髪だけが残光のように揺れ、闇に溶けてゆく。
東京の夜は、自分がいてもいなくても、なにひとつ変わらない居心地のよさと悪さを同時に抱かせる。ふとそんなことを思った。
帰宅する頃には、深夜一時を回っていた。
オレがポケットから鍵を取り出すよりも早く、玄関の扉がカチャリと開いて──中から飛び出してきた女性は、驚いた顔でこちらを見ると「あっ、お邪魔しました」と、サッとオレの横をすり抜けていく。
「……あぁ、女連れ込んでたわけね。なら時間潰せてちょうどよかった」
状況を察したオレは、ため息混じりに呟くと、中に足を踏み入れた。同居人に文句のひとつでも言ってやりたくなるが、そもそもこの家に転がり込んだのはこちらで。結局言葉に詰まる。
文句の代わりに「ただいま」と。明かりのついたリビングで、開けっぱなしの窓に向かってそう言った。窓に近づけば、吹き込んでくる真夜中の風が涼しい。
「ハヤト、そこいるんだろ?」
オレが声をかけると、風でゆらゆらと揺れるカーテンの隙間から「お? 帰ってきた。遅っせーな」と、煙草を燻らせ、ベランダに座り込む同居人が顔を覗かせた。
かろうじて下着とスウェットは履いているものの──上半身は裸。ライブでギターを振り回し、真っ先に脱ぐような男の裸体なんて、見たくないどころか見飽きている。コトが済んだならTシャツの一枚でも着れないものかと毎度思う。
「夜中にさぁ。一発ヤった後に吸う一本がサイコーに美味いんだよなぁぁ」
「今、何月だと思ってんだよ。服ぐらい着ろって」
ソファーの背もたれに雑に脱ぎ捨てられていたTシャツを掴んで、投げつけてやろうかと思ったのに。「サイコーに美味い」と悪びれもせず煙を吐き出すヤツの姿に、なぜだか今夜もチリっと胸が痛む。
タクシーの窓に映る自分の顔が、次々と流れていく街灯に照らされるたび、金色の髪だけが残光のように揺れ、闇に溶けてゆく。
東京の夜は、自分がいてもいなくても、なにひとつ変わらない居心地のよさと悪さを同時に抱かせる。ふとそんなことを思った。
帰宅する頃には、深夜一時を回っていた。
オレがポケットから鍵を取り出すよりも早く、玄関の扉がカチャリと開いて──中から飛び出してきた女性は、驚いた顔でこちらを見ると「あっ、お邪魔しました」と、サッとオレの横をすり抜けていく。
「……あぁ、女連れ込んでたわけね。なら時間潰せてちょうどよかった」
状況を察したオレは、ため息混じりに呟くと、中に足を踏み入れた。同居人に文句のひとつでも言ってやりたくなるが、そもそもこの家に転がり込んだのはこちらで。結局言葉に詰まる。
文句の代わりに「ただいま」と。明かりのついたリビングで、開けっぱなしの窓に向かってそう言った。窓に近づけば、吹き込んでくる真夜中の風が涼しい。
「ハヤト、そこいるんだろ?」
オレが声をかけると、風でゆらゆらと揺れるカーテンの隙間から「お? 帰ってきた。遅っせーな」と、煙草を燻らせ、ベランダに座り込む同居人が顔を覗かせた。
かろうじて下着とスウェットは履いているものの──上半身は裸。ライブでギターを振り回し、真っ先に脱ぐような男の裸体なんて、見たくないどころか見飽きている。コトが済んだならTシャツの一枚でも着れないものかと毎度思う。
「夜中にさぁ。一発ヤった後に吸う一本がサイコーに美味いんだよなぁぁ」
「今、何月だと思ってんだよ。服ぐらい着ろって」
ソファーの背もたれに雑に脱ぎ捨てられていたTシャツを掴んで、投げつけてやろうかと思ったのに。「サイコーに美味い」と悪びれもせず煙を吐き出すヤツの姿に、なぜだか今夜もチリっと胸が痛む。
