Afterglow ー名称未設定のプレイリストー

 三年後。

 私は巨大リハーサルスタジオの片隅で、タブレット端末に表示されたスケジュール表を片手に走り回っていた。

「承知しました。ではアーティストA様の仮組みリハーサルの日程はこのままで」

 クライアントへの連絡が終わり、壁際の機材スペースに戻れば、先輩たちが照明のテストや音響チェックを繰り返している。あと一時間もすれば、今夜はここで新人アイドルグループのリハーサルが始まるはずだ。

「月森さーん、コンビニでご飯買ってきたよ。一息つけそう?」
「ありがとう、助かる」

 私を呼ぶ声に、後ろを振り返れば、そこにいたのは同僚。タブレット端末にチラッと視線を向け「少しだけなら時間が取れそう」と、私は同僚と一緒にスタッフ用控え室に向かった。

 リハーサルスタジオや撮影スペース、イベント会場を運営する会社で働き始めて、もう二年になる。
 
 音楽の世界に生きる人たちにとって、ステージが咲き誇る場所であってほしい。
 そう願って転職を決めた。

 給料は安いし、終電を逃すのも日常茶飯事。休みの日も突然のトラブルで呼び出される。
 でも、こんなに充実した日々を過ごせるなんて、思ってもみなかった。

 控え室で、同僚が興奮気味に話し出す。

「それでさ。この前の休み、Ashのデビュー三周年ライブに行ってきたんだけど……どうしよう、最高すぎて泣きそうだった!」
「え?」
 
 Ash、という言葉に心臓が跳ねた。

「月森さんも好きなのに。なんでAshのライブ行かないの」
「……ほら。チケットなかなか取れないから」

「そうだけどさぁ。あ、これお土産。アニバーサリーのパンフレット」
「いいの? 嬉しい、ありがとう」

 ライブの日、シフト代わってくれたから、と。
 笑いながらパンフレットを差し出した同僚に、お礼を伝えた。

 あれから、Ashは人気ロックバンドとして、瞬く間にスターダムに駆け上がった。
 街には彼らの音楽が流れ、新曲をリリースすれば、ありとあらゆるメディアを占拠する。

 だから、都合が良かった。

 こうやって「人気でチケットが取れない」と濁しても、誰も不思議に思わないから。