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柔らかな太陽の光が降り注ぐ、春の気配を感じるあたたかい日だった。
あれからオレたちは、メジャーデビューを果たした。
過ぎ去った日々に囚われ、悔やむ時間すら与えられなかった。
ため息をつく間もないほど、音楽という仕事に分刻みで追われる生き方を知った。
だからこうやって、スタッフの視線から逃れ、ひとりで街を歩くのも久しぶりだった。
キャップを深く被り直すと、オレはずっと訪れたかった場所へ向かった。
それがどれだけ身勝手なことだとわかっていても、諦めたくなかったから。
「あぁ、ここだ」
小さなマンションの手前で立ち止まり、オレは大きく深呼吸をした。
……ここは、かつて一度だけ訪れた、彼女がいるはずの場所。
決意をなぞるように、オレは胸元に斜め掛けしていたバッグからCDと短い手紙を取り出し、足を踏み出した。マンション前には引越業者のトラックが停まり、エントランスは絶えず業者が行き来して、どこか騒がしい。
邪魔にならないように、台車や段ボールを避けて中に入ろうとした時のこと。
「入居作業中でご迷惑をおかけしておりまーす」
オレを通り越していく台車に積まれたダンボールに書かれた、部屋番号らしき数字が目に飛び込んできた。
……嫌な予感がした。
とっさに踵を返すと、エントランスを抜け、外へ駆け出した。
あの日、彼女の部屋から見た明け方の空は、息を呑むほど美しかった。太陽が昇ってくる方向にあった、大きな窓と白いカーテン。その記憶を頼りに、マンションの窓を見上げる目が彷徨う。
「嘘だろ……」
ユニフォームを着た業者の影がちらつく、その窓にもう白いカーテンはない。
全てを悟った。
膝が震え、崩れ落ちていく身体を支えきれなかった。
今もなお彼女の姿を探してしまう──とっくに幕は引かれていたのに。
呆然と見上げた空は、濃くなってゆく青とオレンジのグラデーションが溶け合う、美しい色だった。
届かないとわかっていても、伸ばしてしまう愚かさに、何も掴めなかった手が震えた。
碧空と過ごした日々が、まるで淡い夢のように、遠い記憶になっていくのが、初めて怖いと思った。
柔らかな太陽の光が降り注ぐ、春の気配を感じるあたたかい日だった。
あれからオレたちは、メジャーデビューを果たした。
過ぎ去った日々に囚われ、悔やむ時間すら与えられなかった。
ため息をつく間もないほど、音楽という仕事に分刻みで追われる生き方を知った。
だからこうやって、スタッフの視線から逃れ、ひとりで街を歩くのも久しぶりだった。
キャップを深く被り直すと、オレはずっと訪れたかった場所へ向かった。
それがどれだけ身勝手なことだとわかっていても、諦めたくなかったから。
「あぁ、ここだ」
小さなマンションの手前で立ち止まり、オレは大きく深呼吸をした。
……ここは、かつて一度だけ訪れた、彼女がいるはずの場所。
決意をなぞるように、オレは胸元に斜め掛けしていたバッグからCDと短い手紙を取り出し、足を踏み出した。マンション前には引越業者のトラックが停まり、エントランスは絶えず業者が行き来して、どこか騒がしい。
邪魔にならないように、台車や段ボールを避けて中に入ろうとした時のこと。
「入居作業中でご迷惑をおかけしておりまーす」
オレを通り越していく台車に積まれたダンボールに書かれた、部屋番号らしき数字が目に飛び込んできた。
……嫌な予感がした。
とっさに踵を返すと、エントランスを抜け、外へ駆け出した。
あの日、彼女の部屋から見た明け方の空は、息を呑むほど美しかった。太陽が昇ってくる方向にあった、大きな窓と白いカーテン。その記憶を頼りに、マンションの窓を見上げる目が彷徨う。
「嘘だろ……」
ユニフォームを着た業者の影がちらつく、その窓にもう白いカーテンはない。
全てを悟った。
膝が震え、崩れ落ちていく身体を支えきれなかった。
今もなお彼女の姿を探してしまう──とっくに幕は引かれていたのに。
呆然と見上げた空は、濃くなってゆく青とオレンジのグラデーションが溶け合う、美しい色だった。
届かないとわかっていても、伸ばしてしまう愚かさに、何も掴めなかった手が震えた。
碧空と過ごした日々が、まるで淡い夢のように、遠い記憶になっていくのが、初めて怖いと思った。
