この街にいるとよくわかる。得体の知れない大きな何かに、飲み込まれていくような感覚。それに抗おうと、確かなものを探すのに、そんなものは見つからなくて。
「わかる……私も、どこかに自分を置き去りにした気がする」
握りしめた指先は冷たいのに、心臓がドクンと熱く脈を打つ。出かかった言葉を押し込もうとした喉が熱くなって──押し込めきれなかった、本音の断片がポロポロと零れる。
私の言葉に彼はふっと笑うと、手に持っていた缶コーヒーをぐしゃりと握りつぶした。
「そっか、オレと同じですね」
「あの…っ。さっき歌っていたの、なんていう曲ですか」
「あぁ。あれはバンドで今作ってるやつで、まだタイトルはないかな。歌詞もこれからだし……」
鼻歌でも十分、さっきの曲素敵でした、と。私がそう伝えると「まだデモの段階」と教えてくれた。バンドでボーカルをやってる、と続けながら。
「……歌って、唯一自分が必要とされるものだから」
「私も…昔はライブに行ったり、叫んだり、自由だったのにな……」
何かに思いを馳せるような、慈愛に満ちた表情で目を伏せる彼を見たら、ほんの一瞬、音楽が大好きだった頃の私の姿と重ねてしまいそうになった。
自分の胸の奥底に残る、かすかな種火を消したくなくて、私は消え入りそうな声でそっと呟く。
