Afterglow ー名称未設定のプレイリストー

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 真夜中を過ぎているのに、夜明けまで果てしなく遠い。
 窓の外は音が消え、わずかな街灯ですら漆黒の闇に包まれる時間。

「おいハノン、起きてんだろ? 開けろよ」

 部屋の扉をドンドンと叩く音に、コイツは今踏み込んでくるのかと。絶望的なまでに容赦のないハヤトの訪問に、オレは大きなため息をつくと、扉を開けた。
 
「こんな時間になんの──」
「ハハッ! 思ったとおり、ひでぇ顔してんな…ほらよ」

 開けるやいなや、額に白いビニール袋を勢いよく押し付けられ、予想外の冷たい感触に一瞬ひるんだ。その隙を見逃さず、真夜中の訪問者はあっさりと部屋の中に踏み込む。
 
 パタン、と扉が閉まる音がした。

「その……ハヤト」

 今夜の動画流出は、当たり前のようにハヤト達メンバーにも伝わっているだろう。 
 オレが何を言ったとしても、全てが言い訳。ハヤトなら今のオレを叩きのめすなんて、息をするより容易だ。

「酔わないとやってらんねー」

 ハヤトは心底ダルそうな顔で扉に寄りかかると、ビニール袋の中からアルコール飲料の缶を取り出す。
 一本をオレに手渡すと、残りの一本のプルダウンを引く。プシュ、という音が静かに響いた。
 
「おまえも酔いたいなら好きに飲め。ただし喉潰して明日ステージ上がったらぶん殴るぞ」

「……そう言われて、オレがこれ、飲めると思うのかよ」

「さぁ? 知らねー。今のおまえと飲んでも酒が不味いし、長居する気ねぇし──あぁそうだ」   
 
「なに」 

 ハヤトが目を細め、オレを挑発するように片眉をゆるりと上げた。

「おまえほんと、何も知らねぇのな……さっき俺とコウキ(リーダー)が呼び出されて確認された。追加動画に映ってた子で間違いないかって」 

 追加動画? そんな話は聞いていない。
 オレは差し出されたスマホをひったくると、流れてくる映像を凝視した。

「え? …んだよ……なんだよこれ!」

 必死にカメラから顔を背け、フラッシュを浴びる碧空がそこにいた。

 ……血の気が引いた。

 顔部分はかろうじてモザイクはかかっていたけれど、見ればわかった。
 誰がこんなことを──ドロドロとした憎悪が増幅され、爆発しそうなほど膨れ上がっていく。
 
「知るかよ。今夜の暴露アカの動画を見て、暴走したやつらがこの子のところに突撃しに行ったんだろ」

「…んで。なんで碧空は言ってくれなかったんだよ……黙ってたんだよ!」

 助けて、守って。
 どうしてそう言ってくれなかったんだ。


『奏音。私たち、もう会わない方がいいと思う』


 オレはどこまでも愚かで、そんなにも頼りなかったのか。

 聞きたかったのはそんな言葉じゃない。

 オレを否定しようと必死に声を震わせ、投げつけてきた言葉は全部嘘だった。
 この世界でたったひとり、奏音として向き合ってくれた碧空に、そこまで言わせてしまった。

 胸の奥で、ふっと光が消えた気がした。 
 
 ……ハノンなんて、最初からどこにもいない。
 
 ハヤトが望んで、ファンが焦がれる幻を、オレ(奏音)が作り上げてるだけ。
 碧空はきっと、そのこともわかってた。


『あなたは歌と共に生きる人だから』