•┈┈┈••✦☪︎✦••┈┈┈•
真夜中を過ぎているのに、夜明けまで果てしなく遠い。
窓の外は音が消え、わずかな街灯ですら漆黒の闇に包まれる時間。
「おいハノン、起きてんだろ? 開けろよ」
部屋の扉をドンドンと叩く音に、コイツは今踏み込んでくるのかと。絶望的なまでに容赦のないハヤトの訪問に、オレは大きなため息をつくと、扉を開けた。
「こんな時間になんの──」
「ハハッ! 思ったとおり、ひでぇ顔してんな…ほらよ」
開けるやいなや、額に白いビニール袋を勢いよく押し付けられ、予想外の冷たい感触に一瞬ひるんだ。その隙を見逃さず、真夜中の訪問者はあっさりと部屋の中に踏み込む。
パタン、と扉が閉まる音がした。
「その……ハヤト」
今夜の動画流出は、当たり前のようにハヤト達メンバーにも伝わっているだろう。
オレが何を言ったとしても、全てが言い訳。ハヤトなら今のオレを叩きのめすなんて、息をするより容易だ。
「酔わないとやってらんねー」
ハヤトは心底ダルそうな顔で扉に寄りかかると、ビニール袋の中からアルコール飲料の缶を取り出す。
一本をオレに手渡すと、残りの一本のプルダウンを引く。プシュ、という音が静かに響いた。
「おまえも酔いたいなら好きに飲め。ただし喉潰して明日ステージ上がったらぶん殴るぞ」
「……そう言われて、オレがこれ、飲めると思うのかよ」
「さぁ? 知らねー。今のおまえと飲んでも酒が不味いし、長居する気ねぇし──あぁそうだ」
「なに」
ハヤトが目を細め、オレを挑発するように片眉をゆるりと上げた。
「おまえほんと、何も知らねぇのな……さっき俺とコウキが呼び出されて確認された。追加動画に映ってた子で間違いないかって」
追加動画? そんな話は聞いていない。
オレは差し出されたスマホをひったくると、流れてくる映像を凝視した。
「え? …んだよ……なんだよこれ!」
必死にカメラから顔を背け、フラッシュを浴びる碧空がそこにいた。
……血の気が引いた。
顔部分はかろうじてモザイクはかかっていたけれど、見ればわかった。
誰がこんなことを──ドロドロとした憎悪が増幅され、爆発しそうなほど膨れ上がっていく。
「知るかよ。今夜の暴露アカの動画を見て、暴走したやつらがこの子のところに突撃しに行ったんだろ」
「…んで。なんで碧空は言ってくれなかったんだよ……黙ってたんだよ!」
助けて、守って。
どうしてそう言ってくれなかったんだ。
『奏音。私たち、もう会わない方がいいと思う』
オレはどこまでも愚かで、そんなにも頼りなかったのか。
聞きたかったのはそんな言葉じゃない。
オレを否定しようと必死に声を震わせ、投げつけてきた言葉は全部嘘だった。
この世界でたったひとり、奏音として向き合ってくれた碧空に、そこまで言わせてしまった。
胸の奥で、ふっと光が消えた気がした。
……ハノンなんて、最初からどこにもいない。
ハヤトが望んで、ファンが焦がれる幻を、オレが作り上げてるだけ。
碧空はきっと、そのこともわかってた。
『あなたは歌と共に生きる人だから』
真夜中を過ぎているのに、夜明けまで果てしなく遠い。
窓の外は音が消え、わずかな街灯ですら漆黒の闇に包まれる時間。
「おいハノン、起きてんだろ? 開けろよ」
部屋の扉をドンドンと叩く音に、コイツは今踏み込んでくるのかと。絶望的なまでに容赦のないハヤトの訪問に、オレは大きなため息をつくと、扉を開けた。
「こんな時間になんの──」
「ハハッ! 思ったとおり、ひでぇ顔してんな…ほらよ」
開けるやいなや、額に白いビニール袋を勢いよく押し付けられ、予想外の冷たい感触に一瞬ひるんだ。その隙を見逃さず、真夜中の訪問者はあっさりと部屋の中に踏み込む。
パタン、と扉が閉まる音がした。
「その……ハヤト」
今夜の動画流出は、当たり前のようにハヤト達メンバーにも伝わっているだろう。
オレが何を言ったとしても、全てが言い訳。ハヤトなら今のオレを叩きのめすなんて、息をするより容易だ。
「酔わないとやってらんねー」
ハヤトは心底ダルそうな顔で扉に寄りかかると、ビニール袋の中からアルコール飲料の缶を取り出す。
一本をオレに手渡すと、残りの一本のプルダウンを引く。プシュ、という音が静かに響いた。
「おまえも酔いたいなら好きに飲め。ただし喉潰して明日ステージ上がったらぶん殴るぞ」
「……そう言われて、オレがこれ、飲めると思うのかよ」
「さぁ? 知らねー。今のおまえと飲んでも酒が不味いし、長居する気ねぇし──あぁそうだ」
「なに」
ハヤトが目を細め、オレを挑発するように片眉をゆるりと上げた。
「おまえほんと、何も知らねぇのな……さっき俺とコウキが呼び出されて確認された。追加動画に映ってた子で間違いないかって」
追加動画? そんな話は聞いていない。
オレは差し出されたスマホをひったくると、流れてくる映像を凝視した。
「え? …んだよ……なんだよこれ!」
必死にカメラから顔を背け、フラッシュを浴びる碧空がそこにいた。
……血の気が引いた。
顔部分はかろうじてモザイクはかかっていたけれど、見ればわかった。
誰がこんなことを──ドロドロとした憎悪が増幅され、爆発しそうなほど膨れ上がっていく。
「知るかよ。今夜の暴露アカの動画を見て、暴走したやつらがこの子のところに突撃しに行ったんだろ」
「…んで。なんで碧空は言ってくれなかったんだよ……黙ってたんだよ!」
助けて、守って。
どうしてそう言ってくれなかったんだ。
『奏音。私たち、もう会わない方がいいと思う』
オレはどこまでも愚かで、そんなにも頼りなかったのか。
聞きたかったのはそんな言葉じゃない。
オレを否定しようと必死に声を震わせ、投げつけてきた言葉は全部嘘だった。
この世界でたったひとり、奏音として向き合ってくれた碧空に、そこまで言わせてしまった。
胸の奥で、ふっと光が消えた気がした。
……ハノンなんて、最初からどこにもいない。
ハヤトが望んで、ファンが焦がれる幻を、オレが作り上げてるだけ。
碧空はきっと、そのこともわかってた。
『あなたは歌と共に生きる人だから』
