[Side Kanon]
今夜のライブは、アンコール前に下がった時から、舞台裏の様子がどこかおかしかった。
片時もスマホを離さず走り回る事務所のスタッフに、マネージャーに駆け寄るレーベルのA&R。異様なほどピリついた雰囲気の中、オレたちはアンコールのためにステージに舞い戻った。
終演後。楽屋に戻る間もなくマネージャーに声をかけられ、理由もわからないまま、空き部屋に押し込まれた。
青白い灯りの下、オレとマネージャーの影が揺れる。
流れる空気は、息苦しいまでに重い。
「ハノン。この前の周年ライブの後、一体どこで誰と一晩過ごしていたの」
「え?」
開口一番、確信に迫る鋭い問いを投げかけられ、ジワリと背中に汗が滲む。
「体調を崩してタクシーで帰宅したと報告があったけれど、どこに帰ったの? 説明、いえ弁明はある?」
マネージャーが突き出したスマホに流れる映像にピントが合った瞬間、心臓がドクンと鳴った。
「──っ!」
薄暗い映像の中、壁際に座り込んだ男性に女性が駆け寄る。
男性が手を伸ばせば、女性がそれに応えるように背中に手を回し、抱き合う。
それからタクシーに二人で乗り込んで行って──。
顔ははっきりとわからなくても、ビーニーからのぞく金色の髪、耳元で光るシルバーのアクセサリー。これが誰なのかは、容易にわかった。碧空まで特定されてしまったら……目の前がゆるやかにブラックアウトしてゆく。
「暴露系ゴシップチャンネルに、盗撮動画を売られたんでしょうね。今夜のライブの時間を狙って投稿されて、瞬く間に広まってる……ハノン、なんてことしてくれたの!」
「待ってください! 大切な人ですが……あなた達が想像しているような関係じゃない」
「そう、それなら尚更ね」
「え?」
マネージャーの冷たい声が、部屋に響く。
「一番厄介なパターンじゃない! ハヤトのように上手く遊べるタイプじゃないんだから。必死に庇うなんて、交際に発展するの時間の問題でしょう。Ashにとって大切な時に、生々しいゴシップでハノンのイメージを壊さないで」
「謝罪ならいくらでもする、オレの話を──」
「どういう関係であろうと、事務所は相手の方まで守り抜けません。守りたいなら縁を切ることが最善です。この件についてハノンは一切言及しないこと。メジャーデビュー前に膿を出し切る代わりに、キューブレコーズがこんな甘い落とし所で見逃してくれたことに感謝しなさい」
生々しいゴシップ?
膿を出し切る?
碧空はなにも悪くない。
オレが一方的に救いを求めて、縋っただけだ。
爪が食い込むほど握り締めた拳が震える。
胸の奥底から込み上げてきた焦りに、猛スピードで心が蝕まれてゆく。
「ハノン。東京に戻ったら、すぐにケジメをつけて」
胸の奥で閃光のように瞬いていた、どこまでも優しい記憶が、真っ黒に塗り替えられていく気がした。
今夜のライブは、アンコール前に下がった時から、舞台裏の様子がどこかおかしかった。
片時もスマホを離さず走り回る事務所のスタッフに、マネージャーに駆け寄るレーベルのA&R。異様なほどピリついた雰囲気の中、オレたちはアンコールのためにステージに舞い戻った。
終演後。楽屋に戻る間もなくマネージャーに声をかけられ、理由もわからないまま、空き部屋に押し込まれた。
青白い灯りの下、オレとマネージャーの影が揺れる。
流れる空気は、息苦しいまでに重い。
「ハノン。この前の周年ライブの後、一体どこで誰と一晩過ごしていたの」
「え?」
開口一番、確信に迫る鋭い問いを投げかけられ、ジワリと背中に汗が滲む。
「体調を崩してタクシーで帰宅したと報告があったけれど、どこに帰ったの? 説明、いえ弁明はある?」
マネージャーが突き出したスマホに流れる映像にピントが合った瞬間、心臓がドクンと鳴った。
「──っ!」
薄暗い映像の中、壁際に座り込んだ男性に女性が駆け寄る。
男性が手を伸ばせば、女性がそれに応えるように背中に手を回し、抱き合う。
それからタクシーに二人で乗り込んで行って──。
顔ははっきりとわからなくても、ビーニーからのぞく金色の髪、耳元で光るシルバーのアクセサリー。これが誰なのかは、容易にわかった。碧空まで特定されてしまったら……目の前がゆるやかにブラックアウトしてゆく。
「暴露系ゴシップチャンネルに、盗撮動画を売られたんでしょうね。今夜のライブの時間を狙って投稿されて、瞬く間に広まってる……ハノン、なんてことしてくれたの!」
「待ってください! 大切な人ですが……あなた達が想像しているような関係じゃない」
「そう、それなら尚更ね」
「え?」
マネージャーの冷たい声が、部屋に響く。
「一番厄介なパターンじゃない! ハヤトのように上手く遊べるタイプじゃないんだから。必死に庇うなんて、交際に発展するの時間の問題でしょう。Ashにとって大切な時に、生々しいゴシップでハノンのイメージを壊さないで」
「謝罪ならいくらでもする、オレの話を──」
「どういう関係であろうと、事務所は相手の方まで守り抜けません。守りたいなら縁を切ることが最善です。この件についてハノンは一切言及しないこと。メジャーデビュー前に膿を出し切る代わりに、キューブレコーズがこんな甘い落とし所で見逃してくれたことに感謝しなさい」
生々しいゴシップ?
膿を出し切る?
碧空はなにも悪くない。
オレが一方的に救いを求めて、縋っただけだ。
爪が食い込むほど握り締めた拳が震える。
胸の奥底から込み上げてきた焦りに、猛スピードで心が蝕まれてゆく。
「ハノン。東京に戻ったら、すぐにケジメをつけて」
胸の奥で閃光のように瞬いていた、どこまでも優しい記憶が、真っ黒に塗り替えられていく気がした。
