午後九時。
「イベント制作コース、学びがいがありそう」
私はそう呟きながら、音楽専門学校を後にした。胸に抱えた資料がずっしりと重い。
コンサート制作・運営会社への就職を視野に入れたカリキュラムはとても魅力的だった。業界に必要な知識を体系的に学べるのもありがたい。なにより、感動を生み出すライブやコンサートという現場に、ゼロから関われたら──なんて幸せなんだろう。
「あとは授業料だよね。家賃安いところに引っ越そうかな」
夜の冷たい空気に、吐き出した息が白く染まる。
近づいてきた冬の足音も、今夜は少しばかりの高揚感のおかげで気にならなかった。
繁華街を歩けば、見慣れたライブハウスのネオンが目に飛び込んできた。
仕事帰りにいつも足早に通り過ぎていた場所が、今は少し違って見える。
もしかしたら、いつかこのライブハウスの企画や運営に携われる未来があるかもしれない。そんな淡い夢に、資料をキュッと抱きしめた。
その瞬間だった。
「お姉さぁん! ちょっとすいませーん」
背後から甲高い声が響き、肩を強く掴まれた。
「え──」
振り返った途端、スマホのフラッシュライトが顔面を灼いた。
パシャリ、パシャリ。シャッター音が鳴り、視界が白く焼ける。
……あ、やばい。
何が起こったのかわからないまま、全身から血の気が引いていく。
膝が小刻みに震え、抱えていた資料がばさりと地面に落ちた。
「てか暴露アカに上がってたやつと、バッグ一緒じゃん?」
「やっぱこの女で間違いないって! 動画も撮っとこ」
憎悪に満ちた目、ケラケラと笑う声、スマホを突きつける手。
そこにいたのは、私より少し若い女の子たち。
私に向けられたスマホに ’Ash’ のロゴがチラリと見えた気がした。
背筋がゾクっと震えた。
理由はわからないのに、身体が勝手に危険を察知する。
まずい、逃げなきゃ──脳内で警報が鳴り響く。
顔を背けようとした瞬間、赤い爪が私の頬をピッと掠めた。
誰かが地面に落ちた資料をぐしゃりと踏みつける音がした。
「ウチら聞きたいことがあってぇ。答えるまで逃さないよ?」
ジワリ詰め寄る影の中で、私はようやく理解した。
「ハノンの周りウロついてんじゃねーよブス」
「イベント制作コース、学びがいがありそう」
私はそう呟きながら、音楽専門学校を後にした。胸に抱えた資料がずっしりと重い。
コンサート制作・運営会社への就職を視野に入れたカリキュラムはとても魅力的だった。業界に必要な知識を体系的に学べるのもありがたい。なにより、感動を生み出すライブやコンサートという現場に、ゼロから関われたら──なんて幸せなんだろう。
「あとは授業料だよね。家賃安いところに引っ越そうかな」
夜の冷たい空気に、吐き出した息が白く染まる。
近づいてきた冬の足音も、今夜は少しばかりの高揚感のおかげで気にならなかった。
繁華街を歩けば、見慣れたライブハウスのネオンが目に飛び込んできた。
仕事帰りにいつも足早に通り過ぎていた場所が、今は少し違って見える。
もしかしたら、いつかこのライブハウスの企画や運営に携われる未来があるかもしれない。そんな淡い夢に、資料をキュッと抱きしめた。
その瞬間だった。
「お姉さぁん! ちょっとすいませーん」
背後から甲高い声が響き、肩を強く掴まれた。
「え──」
振り返った途端、スマホのフラッシュライトが顔面を灼いた。
パシャリ、パシャリ。シャッター音が鳴り、視界が白く焼ける。
……あ、やばい。
何が起こったのかわからないまま、全身から血の気が引いていく。
膝が小刻みに震え、抱えていた資料がばさりと地面に落ちた。
「てか暴露アカに上がってたやつと、バッグ一緒じゃん?」
「やっぱこの女で間違いないって! 動画も撮っとこ」
憎悪に満ちた目、ケラケラと笑う声、スマホを突きつける手。
そこにいたのは、私より少し若い女の子たち。
私に向けられたスマホに ’Ash’ のロゴがチラリと見えた気がした。
背筋がゾクっと震えた。
理由はわからないのに、身体が勝手に危険を察知する。
まずい、逃げなきゃ──脳内で警報が鳴り響く。
顔を背けようとした瞬間、赤い爪が私の頬をピッと掠めた。
誰かが地面に落ちた資料をぐしゃりと踏みつける音がした。
「ウチら聞きたいことがあってぇ。答えるまで逃さないよ?」
ジワリ詰め寄る影の中で、私はようやく理解した。
「ハノンの周りウロついてんじゃねーよブス」
