Afterglow ー名称未設定のプレイリストー

「天使って。オレが?……あぁ、この衣装のせいか」
「あ、わけわからないですよね。すみません……」


 目を細めて笑う姿も、あまい熱を感じさせる低い声も、どう考えたって人間の男のヒトなのに。フッと見せた、きれいな横顔にはどこか寂しさが滲む。くるくると変わる表情はあどけなさも残っていて──いずれにせよ、見ず知らずの相手にそんなことを口走るなんて。恥ずかしさが込み上げてきて、自分でも顔がかぁっと赤くなったのがわかった。

「ライブ終わったあと、ドタバタしてて。着替える時間がなかったんで」
「え。もしかして、あそこのライブハウス?」

 ライブという懐かしくて幸せな響き──私にとっては。でも目の前のヒトは、浮かない表情のまま。そのカラーコンタクトで飾られた薄い色の瞳が、まるでガラスの奥に閉じ込められた水のように揺らぐ。


「そう。その…熱心すぎるファンを路地で撒こうとしたら、この雨。スマホも充電切れてメンバーとも連絡つかないし」

 彼はそう続けると、ふうっと息を吐いた。見上げた天井に向かって呟いた「東京って、時々人を飲み込むよね……」という言葉は掠れ、吸い込まれてゆく。
 
 彼が再び視線を落とせば、長いまつ毛がその瞳に微かな影を落とす。私もつられて視線を下に向けると、缶コーヒーを握る彼の手が見えた。血管が浮き出たその大きな手は、天使と呼ぶには妙に生々しい気がして。

 きっとこのヒトは天使じゃなくて、この世の ’きれい’ をすべて集めて、無理やり人間の形に閉じ込められたんだと思った。


「「……」」


 沈黙の中、窓に叩きつけられる激しい雨の音と、重く静かな洗濯機の音がリズムのようにコインランドリーに響き渡る。

『東京って、時々人を飲み込むよね……』
 
 先ほどの彼の言葉が、胸に痛いほど刺さる。