Afterglow ー名称未設定のプレイリストー

[Side Kanon]
 狭いソファーで碧空と肩を寄せ合い、目を閉じる。
 まるで長い夜が過ぎるのを待ち、羽を休めてるみたいだと思った。

 「奏音」

 名を呼ばれるたび、ここにいてもいいと許された気がした。
 何もかも放棄した夜に見つけた、この感情をどう扱ったらいいんだろう。 

 きっとここは優しいぬくもりに満ちたネバーランドだ──それがひとときの夢だとしても。

「いい夢を、おやすみ」

 オレの肩に頭をあずけた碧空から、先に寝息が聞こえてきた。
 そのうちオレの意識も白っぽく霞んでゆき、いつの間にか夢の中に落ちていった。 


 自分がいつ、眠りに落ちたのかは覚えていない。
 どのぐらいの時間が経ったのかもわからないまま、ふいに目が覚めた。

 パチリと目を開けると、オレンジ色の柔らかな照明に照らされた、見慣れぬ部屋が視界いっぱいに広がる。先に覚醒した意識に、身体がすぐにはついてこない。肩の重みと分けあったあたたかさに、碧空と共に眠った記憶をゆっくりとたぐり寄せた。

 すやすやと寝息を立てる碧空を起こさないよう、オレはそっと身体を離す。

「……ごめんね、無理させた」 

 このままソファーで寝続けたら、きっと身体が休まらない。
 そう思ったオレは、迷いながらも碧空を抱き抱え、ベッドに寝かせるとブランケットをかけた。

 ひとり起きて、カーテンの隙間から窓の外を見れば、うっすら青みがかった空と寝静まった街。
 まだ残る街灯は、空からこぼれ落ちた宝石のようだと思った。

 いつもなら、なんの救いもない景色がどうしてこんなにも美しいんだろう。

 息をするたび、鉛のように重かった胸が軽くなってゆく。
 長い間、息を殺すことが当たり前だったから。

 できることなら、この世界が明けてしまう前に、眠る碧空にも見せたかった。
 オレを奏音と呼び、手を差し伸べてくれたたったひとりの人に。

 伝えたい、残したい──何もかも。

『おまえの歌詞ひとつで、ファンは倍以上の情報を掴んで、汲み取って、自分の人生と重ね合わせんだよ』

 いつかのハヤトの言葉が頭をよぎる。
 人生を重ねるために歌があるというなら、誰よりも高い解像度でこの瞬間を刻もうと思った。

 湧き出てきた言葉を、ひとつも零したくない。

 オレは床に転がっていたスマホとイヤフォンを手に取り、音楽プレーヤーを探す。
 そのまま迷わず名称未設定のプレイリストを開くと、名もなき曲の再生ボタンをタップした。