「そこにいるのって……」
誰かが駆け寄ってくる足音が聞こえた。
それはうずくまるオレの前で止まり、荒い息遣いと共に声が響く。
「奏音……? 奏音!」
見上げれば、そこにいたのは碧空。
肩を大きく上下させ、息を整えながらオレの名を呼ぶ彼女の瞳は、不安に揺れていた。
さっき楽屋で一方的に拒否したはずなのに。
何もかも無意味な夜に沈んでゆくオレを、探し出す価値なんてないのに。
「ねぇ、どうしたの。大丈夫?」
腰をかがめ、心配そうな顔で覗き込まれ、オレは慌てて顔を逸らす。
碧空だって、不安に顔を歪ませるためにここに来たんじゃない。そうさせているのが自分だと思うと、もう憐れなほど、みっともなかった。
「来るなって! こんな姿、見せたくないって言っただろ……」
拒絶を吐き出した声が、裏返って震えた。
どこにも行き場がなくて、世界からゆるやかに遠のいていくオレを、繋ぎ止めることができるのは──きっと目の前にいる彼女なのに。でも、そんな役割を押しつけられたら、迷惑なだけだ。
それならもう「帰るね」と、オレに背を向けてほしかった。「早く行けよ」と、もう一度拒絶を絞り出せばいいのに、喉の奥で震えて、言葉にならない。
「奏音」
膝をつき、オレと同じ目線の高さになった碧空に、もう一度静かに呼ばれ──無理だと思った。
すべてを見透かしてもなお、包み込んでくれるこの優しい人を離したくない。もうどうしようもなくなって、オレは縋るように彼女に手を伸ばした。
「碧空には見える? ハノンじゃないオレが……」
碧空の腕が、オレの背中に回る。
オレをあやすように、何度もさするその手のぬくもりが、心を溶かしていく。
「奏音はここにいるよ。ちゃんと見えてる」
その言葉に、涙があふれた。
今この時だけは、奏音でもいいんだと。
誰かが駆け寄ってくる足音が聞こえた。
それはうずくまるオレの前で止まり、荒い息遣いと共に声が響く。
「奏音……? 奏音!」
見上げれば、そこにいたのは碧空。
肩を大きく上下させ、息を整えながらオレの名を呼ぶ彼女の瞳は、不安に揺れていた。
さっき楽屋で一方的に拒否したはずなのに。
何もかも無意味な夜に沈んでゆくオレを、探し出す価値なんてないのに。
「ねぇ、どうしたの。大丈夫?」
腰をかがめ、心配そうな顔で覗き込まれ、オレは慌てて顔を逸らす。
碧空だって、不安に顔を歪ませるためにここに来たんじゃない。そうさせているのが自分だと思うと、もう憐れなほど、みっともなかった。
「来るなって! こんな姿、見せたくないって言っただろ……」
拒絶を吐き出した声が、裏返って震えた。
どこにも行き場がなくて、世界からゆるやかに遠のいていくオレを、繋ぎ止めることができるのは──きっと目の前にいる彼女なのに。でも、そんな役割を押しつけられたら、迷惑なだけだ。
それならもう「帰るね」と、オレに背を向けてほしかった。「早く行けよ」と、もう一度拒絶を絞り出せばいいのに、喉の奥で震えて、言葉にならない。
「奏音」
膝をつき、オレと同じ目線の高さになった碧空に、もう一度静かに呼ばれ──無理だと思った。
すべてを見透かしてもなお、包み込んでくれるこの優しい人を離したくない。もうどうしようもなくなって、オレは縋るように彼女に手を伸ばした。
「碧空には見える? ハノンじゃないオレが……」
碧空の腕が、オレの背中に回る。
オレをあやすように、何度もさするその手のぬくもりが、心を溶かしていく。
「奏音はここにいるよ。ちゃんと見えてる」
その言葉に、涙があふれた。
今この時だけは、奏音でもいいんだと。
