Afterglow ー名称未設定のプレイリストー

 ひどく喉の渇きを感じた。

 ぼうっとした頭のまま、水を求め周囲を見渡すと目に飛び込んできたのは、机の上に置かれたスポーツ飲料。フラつく身体を引きずりながらそちらに向かうと、ペットボトルの蓋をキュッと捻り、開けるとそのまま一気に飲み干した。

 もう何も考えたくない。
 このままひとりになりたくて……帰ろうと思った。

「近くにシャワールームがあったはず……」

 オレは私服と財布にスマホ──必要最低限しかない荷物を掴み、楽屋を出た。演者用のシャワールームで汗とメイクを流すと、まだ廊下に残っていたスタッフに衣装を手渡す。

「打ち上げは不参加ですね、自宅まで送りますよ」
「タクシー呼ぶからいい」

 オレは振り切るようにそう伝えると、ライブホールの裏手にある通用口に向かった。
 
 ひっそりと潜り抜ければ、月のない夜。
 狭い裏道には、街灯から洩れるわずかな灯りだけが、暗闇とオレの間に存在していた。

 その時、遠くからわぁぁぁ、というかすかな歓声が聞こえた。

 きっと表の大通りだ。メンバーを乗せた車を待つファンたちで埋め尽くされているんだろう。風に乗って熱気がここまで押し寄せてくるような錯覚に、足元がフラついて、咄嗟に建物の壁に手をつく。

 鳴り止まぬ遠い歓声に「ハノン!」と、名を呼ぶ甲高い叫びが混ざっている気がして──クラクラした。キィンという耳鳴りと共に、こめかみを鈍い痛みが襲う。ずるずると壁際に座り込めば、壁の冷たさが背中をつたい、全身に広がっていく。


「オレはどこに行けばいい、奏音が消える……」


 もう何も聞きたくなくて、耳を塞いだ。
 行き場がないなら、いっそ消えてもよかった。