「うぉ、ハノン脱水症状かもよ? ライブ中、水分まともに取ってないだろ!」
「楽屋でしばらく休め。おれら先に打ち上げ行ってるから」
気分が悪い。
ライブ後、ステージを降りスタッフにそう告げた。
ノロノロとバックステージを歩き、楽屋に向かうオレを気遣ってくれるメンバーに、あいまいに頷いた。
辿り着いた楽屋で、バタンと扉を閉める。
過剰なまでにライトアップされた照明付き鏡に映し出されたのは、青白い顔をした──先ほどまでハノンと呼ばれていた自分。
「オレはどこにいる……」
崩れ落ちる身体を支えきれず、壁際にしなだれかかるようにズルズルと座り込む。
今は何も見たくないと──力なく目を閉じた。
壁を隔てて、聞こえてくるのは廊下の喧騒と、行き交うスタッフ達の足音。
近づいてきた足音が、壁の向こうで止まった気配がした。
「ハノンさん、ちょっといいですか!」
「……」
「開けますよ!」
「悪いけど、少しひとりに……」
背中を預けた扉をドンドンと叩かれ、その振動の不快さに、こめかみに鈍い痛みが走った。こんな状態で、何をどうしろと言うのか。言葉少なに拒絶したオレに、スタッフは「今頃ゲストですけど」とだけ告げると、それきり声が止まった。
代わりに聞こえてきたのは、トントンと控えめに扉をノックする音。
「あの、碧空です。ライブ終わっちゃったけど、ここには入れてもらえて……」
「アオ…イ?」
「奏音? 体調悪いって聞いたよ、大丈夫?」
「……」
扉越しに聞こえてくる小さな声に、彼女は申し訳なさそうな表情を浮かべているんじゃないかと思った。遅れちゃってごめんね、体調悪いのにごめんね、と。
そうじゃない、彼女のせいじゃない。
扉を開けてこんな無様な姿を見せたら、失望されるに決まってる。
込み上げてきた罪悪感と焦燥感に、吐き気にも似ためまいがした。
「ごめん邪魔したかな。私、帰るね」
「……がう、違う!」
「え?」
「──キミにまでこんな姿見せたくないんだよ!」
見せたくない、見せられるわけがなかった。
オレを奏音と呼び、綻ぶような笑顔で歌を聞いてくれる碧空に。
「楽屋でしばらく休め。おれら先に打ち上げ行ってるから」
気分が悪い。
ライブ後、ステージを降りスタッフにそう告げた。
ノロノロとバックステージを歩き、楽屋に向かうオレを気遣ってくれるメンバーに、あいまいに頷いた。
辿り着いた楽屋で、バタンと扉を閉める。
過剰なまでにライトアップされた照明付き鏡に映し出されたのは、青白い顔をした──先ほどまでハノンと呼ばれていた自分。
「オレはどこにいる……」
崩れ落ちる身体を支えきれず、壁際にしなだれかかるようにズルズルと座り込む。
今は何も見たくないと──力なく目を閉じた。
壁を隔てて、聞こえてくるのは廊下の喧騒と、行き交うスタッフ達の足音。
近づいてきた足音が、壁の向こうで止まった気配がした。
「ハノンさん、ちょっといいですか!」
「……」
「開けますよ!」
「悪いけど、少しひとりに……」
背中を預けた扉をドンドンと叩かれ、その振動の不快さに、こめかみに鈍い痛みが走った。こんな状態で、何をどうしろと言うのか。言葉少なに拒絶したオレに、スタッフは「今頃ゲストですけど」とだけ告げると、それきり声が止まった。
代わりに聞こえてきたのは、トントンと控えめに扉をノックする音。
「あの、碧空です。ライブ終わっちゃったけど、ここには入れてもらえて……」
「アオ…イ?」
「奏音? 体調悪いって聞いたよ、大丈夫?」
「……」
扉越しに聞こえてくる小さな声に、彼女は申し訳なさそうな表情を浮かべているんじゃないかと思った。遅れちゃってごめんね、体調悪いのにごめんね、と。
そうじゃない、彼女のせいじゃない。
扉を開けてこんな無様な姿を見せたら、失望されるに決まってる。
込み上げてきた罪悪感と焦燥感に、吐き気にも似ためまいがした。
「ごめん邪魔したかな。私、帰るね」
「……がう、違う!」
「え?」
「──キミにまでこんな姿見せたくないんだよ!」
見せたくない、見せられるわけがなかった。
オレを奏音と呼び、綻ぶような笑顔で歌を聞いてくれる碧空に。
