Afterglow ー名称未設定のプレイリストー

[Side Kanon]
 撮影スタジオに足を踏み入れた瞬間、ひんやりとした空気が肌を刺した。

「ハノンさん撮影入られまーす!」

 スタッフの大きな声に、ハウススタジオのざわめきがピタリと止まる。
 全ての人の視線が自分に向けられたのがわかって、オレはごくりと息を呑んだ。

 コンクリート打ちっぱなしの壁に、鈍く磨かれた床、剥き出しの梁、高い天井。
 大きな窓から降り注ぐ込む光が、床に鋭い影を落として──その無機質さを際立たせる。

 無彩色で埋め尽くされ、まるで何もかも剥ぎ取られたみたいだ。
 輪郭のない、存在の境界が溶けていく世界。
 
「よぉ。インタビュー終わるの早かったな」
「打ち合わせどおりの話しかしてないんだから、早いだろ」

 案内された窓際の待機スペース。
 腕を組み、窓の外を眺めていたハヤトがオレの足音に気づき、手を挙げた。

「与えられた役割を演じてるのは俺だって同じだ」
「よく言う」

 別室で受けたインタビューは、すぐにでも音楽レーベルのウェブサイトに掲載されるだろう。自社レーベルを持つ音楽芸能事務所から、期待の若手バンド(Ash)が華々しくメジャーデビューすると。

 レコーディング環境も、プロモーション企画も、アルバム一枚のビジュアルコンセプトひとつとっても「これが大手か」と、夢が現実になっていく規模があまりに大きくて、身震いした。

 それは徹底した管理という名の下に、自分たちが知らないAshが独り歩きを始めたことも意図すると、理解するのに時間はかからなかった。

『歌の天才とハノンを称するのは安易でチープ。ビジュアルの方向性は、現実の世界と一線を画した幻想的な存在で…』
『ハヤトはAshの(コア)だ。ステレオタイプのカリスマ型としてはっきり打ち出しても問題ない』

 オレは──ただ歌を、音楽をやりたいだけなのに。発言も立ち振る舞いも、こんなにも制限され圧迫されるのかと。

 貼り付けた笑顔に嘘の言葉を重ね、それを美しいと賞賛されるたび、胸に空いた歪な穴が広がってゆく。