午後一時。
「この前、奏音なんだか思いつめてるみたいだったけど…制作期間ってピリピリしてるのかな」
息苦しさから解放されたいと、昼休憩で外出した私は、ふと立ち止まった。
どんよりと曇った空を見上げれば、深まってゆく秋の乾いた風が肌を撫でる。
さっき定食屋で注文した日替わり定食を待ちながら、気分転換にスマホでAshのSNSを開いた。パッと目に飛び込んできたのは、オフショットと思われるメンバーの写真と、重大告知の一文。
ファン達のコメントをスクロールすれば、大手音楽レーベルが彼らのアカウントをフォローし、いよいよメジャーデビューが近いと騒がれていた。
『声が聞きたくなって──なんてね』
あの夜の奏音の声が、まだ耳に残っている。
甘えられたみたいで嬉しかったはずなのに、胸にポタリと黒い染みが落ちてゆく。
彼の声が、あんなにも苦しげなのは初めてだったから。
もっと知りたいのに、近づきたいのに。
『本物? オレに本物なんてないよ』
自嘲めいた言葉の意味を、紐解いてはいけないと咄嗟に悟った。
もし目の前にいたら、あのきれいな顔が、泣きそうなほど歪んでいる気がしたから。
「えぇい! 気になるしメッセージぐらい送ってもいい…よね?」
足早にオフィスに戻りながら、アルバム制作がんばってね、と励ましのメッセージを送った。そしてそのまま、溜まった仕事を片付けようと席に向かった時のこと。
昼休憩でガランとしたそこで、ベテランの女性が熱心に何か読んでいるのを見つけた。あまりに真剣な顔だったから、気になって通りがかりに声をかけてしまう。
「お疲れさまです。なにしてるんですか?」
「あら、月森さん。この年になって恥ずかしいんだけど、実はね……」
話を聞けば、若い頃のパティシエの夢が諦められず、子供が独立した今がチャンスだと。
「来春から製菓専門学校に通うの。いくつになっても人生は挑戦よぉ」と、屈託のない笑顔は、自信に満ち溢れているように見えた。
「この前、奏音なんだか思いつめてるみたいだったけど…制作期間ってピリピリしてるのかな」
息苦しさから解放されたいと、昼休憩で外出した私は、ふと立ち止まった。
どんよりと曇った空を見上げれば、深まってゆく秋の乾いた風が肌を撫でる。
さっき定食屋で注文した日替わり定食を待ちながら、気分転換にスマホでAshのSNSを開いた。パッと目に飛び込んできたのは、オフショットと思われるメンバーの写真と、重大告知の一文。
ファン達のコメントをスクロールすれば、大手音楽レーベルが彼らのアカウントをフォローし、いよいよメジャーデビューが近いと騒がれていた。
『声が聞きたくなって──なんてね』
あの夜の奏音の声が、まだ耳に残っている。
甘えられたみたいで嬉しかったはずなのに、胸にポタリと黒い染みが落ちてゆく。
彼の声が、あんなにも苦しげなのは初めてだったから。
もっと知りたいのに、近づきたいのに。
『本物? オレに本物なんてないよ』
自嘲めいた言葉の意味を、紐解いてはいけないと咄嗟に悟った。
もし目の前にいたら、あのきれいな顔が、泣きそうなほど歪んでいる気がしたから。
「えぇい! 気になるしメッセージぐらい送ってもいい…よね?」
足早にオフィスに戻りながら、アルバム制作がんばってね、と励ましのメッセージを送った。そしてそのまま、溜まった仕事を片付けようと席に向かった時のこと。
昼休憩でガランとしたそこで、ベテランの女性が熱心に何か読んでいるのを見つけた。あまりに真剣な顔だったから、気になって通りがかりに声をかけてしまう。
「お疲れさまです。なにしてるんですか?」
「あら、月森さん。この年になって恥ずかしいんだけど、実はね……」
話を聞けば、若い頃のパティシエの夢が諦められず、子供が独立した今がチャンスだと。
「来春から製菓専門学校に通うの。いくつになっても人生は挑戦よぉ」と、屈託のない笑顔は、自信に満ち溢れているように見えた。
