Afterglow ー名称未設定のプレイリストー

 ひとりそこに残されたオレは、破り捨て床に落ちた白い紙をなんの躊躇もなく踏みつけた。 

 ゆらぐ ‘ハノン’ が、誰かにとっての存在意義が。
 必要なければ、捧げたはずのAshの世界から、締め出されてしまう。

『おまえの歌詞ひとつで、ファンは自分の人生と重ね合わせんだよ』

 ハヤトの言葉が、耳鳴りのように頭の中をぐるぐると回る。

 空っぽのオレはなにひとつ紡げやしない。いや、そんなことはない。
 自問自答を繰り返せば、祈るように絡めた指から、熱が溶け出してゆく。
 
 このまま熱を失ったら、Ashも歌もどうでもよくなるぐらい、楽になれるんだろうか。
 それとも縛りつける鎖がなくなったら、ハノンもろともオレは消えるんだろうか。

 今夜はもう、何も考えたくなかった──けれど縋りたかった、誰かに。

「声が聞きたくなって──なんてね」
『奏音、どうしたの? 声が暗いよ』

「歌詞煮詰まってて、プチスランプ中」
『そっか、大変だね』

 真っ先に思い浮かんだのは、碧空だった。指が勝手に、通話ボタンを押していた。戸惑いながらも「今帰り道だから、話せるよ」と、受け止めてくれる彼女の優しさに甘えたかった。

「オレ、誰かに歌を捧げないと声が出なくてさ。ハヤトが、あいつがいてくれたから歌えるのに、それじゃオレじゃない気がして……今更すぎるけど」

『えっと……Ashってみんな、元々は高校の同級生なんでしょ? それだけ強い絆で結ばれてるってことじゃないのかな』

「ごめん、わけわかんないよな。いきなり連絡して、歌がどうとか言って」

『どうして謝るの? 誰がなんと言おうと、あなたの声は本物だよ』

 あぁ、きっと碧空の言葉に嘘はない。
 胸の奥に、かすかな光が差し込んでゆく。

 ……本物、か。

 同時にこみあげてきたのは、乾いた笑い。
 
「本物? オレに本物なんてないよ」

 スタジオに静寂が落ちる。
 ハノンは一体、誰のものなんだろう。