私たちはそれから、どのぐらいの時間話したんだろう。
初めて聴いた音楽はなんだったとか、そんな小さなことから、この前のAshのライブの話まで。
お店を後にしても話は尽きず、酔い覚ましにふたり並んで駅までの道を歩く。
「そっか。ライブで披露した曲だと……あれを気に入ったんだ」
「あ、でも。この前コインランドリーで口ずさんでた曲はやらなかったね」
「いや…実は。作詞、まだ進んでなくてさ」
「本当に素敵な歌だったよ。完成したら聴きたいな」
ひんやりとした秋の夜風が、私たちの間をすり抜けてゆく。
見上げた夜空は、街のネオンに照らされ、カラフルで美しい。すれ違う車のライトも、雑踏のノイズも。普段はただ煩わしいだけの世界が、今夜は光に満ちた場所に見えるから不思議だ。
「じゃあ特別に少しだけ歌おうかな……歌詞はテキトーで」
「え?」
交差点でふと足を止めた奏音が、周囲に人がいないことを確認すると、いたずらっぽい笑みを浮かべた。
そのまま彼が、スッと息を吸う気配がした。
まわりのノイズを全て飲み込むような、重く滑らかな声が響く。
艶やかなビブラートが、彼が纏う空気まで変えてゆく。
あぁ、やっぱり。
どうして彼の歌は人の心をたやすく奪っていくんだろう。
私は奏音のことをほんの少ししか知らないけれど、歌を聞けばわかる。彼の鼓動が伝わってくる。’ハノン’ はどこか現実離れした幻のようなのに、ここにいるっていう、触れられないはずの確かな感触をくれるから。
「あぁ……歌って呼べるほどのモノでもなかったな」
歌い終えた奏音がフッと息を吐く。「なんとなく方向性は見えてきたけど」とぼやくあたり、歌詞もまだ納得がいかないらしい。
「奏音の歌は、感情や色があって胸がギュッとなる。その声、宝物だね」
胸の奥から溢れてきた言葉を口にしたら、想像以上に気恥ずかしくてくすぐったかった。彼もきっと、そんなこと言われるなんて思ってなかったんだろう。長い指を口に当て、目をパチパチさせている。
初めて聴いた音楽はなんだったとか、そんな小さなことから、この前のAshのライブの話まで。
お店を後にしても話は尽きず、酔い覚ましにふたり並んで駅までの道を歩く。
「そっか。ライブで披露した曲だと……あれを気に入ったんだ」
「あ、でも。この前コインランドリーで口ずさんでた曲はやらなかったね」
「いや…実は。作詞、まだ進んでなくてさ」
「本当に素敵な歌だったよ。完成したら聴きたいな」
ひんやりとした秋の夜風が、私たちの間をすり抜けてゆく。
見上げた夜空は、街のネオンに照らされ、カラフルで美しい。すれ違う車のライトも、雑踏のノイズも。普段はただ煩わしいだけの世界が、今夜は光に満ちた場所に見えるから不思議だ。
「じゃあ特別に少しだけ歌おうかな……歌詞はテキトーで」
「え?」
交差点でふと足を止めた奏音が、周囲に人がいないことを確認すると、いたずらっぽい笑みを浮かべた。
そのまま彼が、スッと息を吸う気配がした。
まわりのノイズを全て飲み込むような、重く滑らかな声が響く。
艶やかなビブラートが、彼が纏う空気まで変えてゆく。
あぁ、やっぱり。
どうして彼の歌は人の心をたやすく奪っていくんだろう。
私は奏音のことをほんの少ししか知らないけれど、歌を聞けばわかる。彼の鼓動が伝わってくる。’ハノン’ はどこか現実離れした幻のようなのに、ここにいるっていう、触れられないはずの確かな感触をくれるから。
「あぁ……歌って呼べるほどのモノでもなかったな」
歌い終えた奏音がフッと息を吐く。「なんとなく方向性は見えてきたけど」とぼやくあたり、歌詞もまだ納得がいかないらしい。
「奏音の歌は、感情や色があって胸がギュッとなる。その声、宝物だね」
胸の奥から溢れてきた言葉を口にしたら、想像以上に気恥ずかしくてくすぐったかった。彼もきっと、そんなこと言われるなんて思ってなかったんだろう。長い指を口に当て、目をパチパチさせている。
