Afterglow ー名称未設定のプレイリストー

•┈┈┈••✦☪︎✦••┈┈┈•

 今朝、通勤電車の窓に映った自分の顔は、どこかまだ夢見心地で穏やかだった。
 イヤフォンから流れるAshの曲に、自然と口角が上がってしまった。

 ライブが終わって、私も、観客も。
 一夜限りの夢から、ゆっくりと日常に戻ってゆく。

 熱狂は少しずつ冷めていくけれど、この余韻を大切にしたかった。
 でも、仕事という現実はそんな猶予も与えてくれない。


「この度はご迷惑をおかけし、誠に申し訳ございませんでした。失礼いたしま──」

 私が言い終わるよりも早く、ぷつりと通話が切れる音がした。

 企業理念に惹かれて、入社した消費財メーカーだった。
 ‘毎日を彩る、小さな幸せを届けたい’ ‘長く愛されるものを、世界に’

 でも今は電話を切るたび、耳の奥でお客様の怒声と自分の謝罪の声が混ざり合う。息を詰めて耐えれば、震える指先が冷たくなる。

 それだけじゃない。

「責任者なら、顧客満足指数を飛躍的に向上させるための改善案を……」
「月森せんぱーい。色々考えたんですけど、この仕事向いてないんで辞めます」

 長引いた対応を上司から叱責され、後輩はあっさりと辞表をチラつかせる。なんのために後輩を励まし、代わって責任を取ったのかと虚しくなる。

 休憩時間、外で救いを求めるように見上げた都会の空は、
 こんなにも青いのに、ビルの隙間で息苦しい。

「飛んで行けたらいいのにな……」

 あてもなく呟いてみたって、どこへ行くっていうんだろう。

 あぁ、なんで東京にいるんだっけ。
 これじゃ私は、もうこの街にいる理由だってないのかもしれない。

 いつの間にか思考の大半を占めるようになった諦念を振り払おうと、私はそっと首を横に振った。
 
 その時のこと。
 手に持っていたスマホが震えた。


=====
ライブ来てくれてありがとう
また感想聞かせて
=====


 届いた奏音からのメッセージに、私は弱音を漏らす。


「いいなぁ、奏音は大好きな音楽をやれて。自由に空を飛べてるのかな」


 彼が時折見せる、憂いのある表情を思い出せば、楽しいことばかりじゃないと想像はつく。瞳の奥に、言葉にできない影が揺れている気がして、私の心にずっと引っかかったまま。

 それでも彼には、途方もない夢を現実にできるヒトにしかないまばゆさがあって。消えてしまったはずの、私の音楽への想いに小さな火をつけてくれた。まだ灰になんてなってない。

 ステージにいる彼も、鳴っていた音も、私にとって確かな希望になったって──胸にしまった言葉を、全部伝えられたらいいなと思った。