Afterglow ー名称未設定のプレイリストー

 午後十時。
 
 雨の匂いが漂う夜。
 ライブハウスのネオンの眩しさに、私は目を細めた。

「ねぇ、誰か出て来そうじゃない?」
ハノン達(メンバー)だったら写真撮って!」

 出待ちの女の子たちの、興奮で弾ける声が響く。

 私は仕事のバッグの紐をキュッと握りしめ、
 足を止めることなく、その人混みをすり抜けた。

 昔、初めてのバイト代で買った編み上げブーツも、もう出番がない。
 その感触は記憶の底に沈み、最後にライブに行ったのがいつだったか、思い出せない。

 叫んだ歌の残響も、汗と笑顔の熱気も、
 あの頃のすべては、いつの間にか燃え尽きて灰になってしまった。

 消えない──胸の奥で、静かに積もる重さだけを残して。


「今の私は、どこにいるんだろう」


 ふと呟いて暗い空を見上げれば、雨粒が頬を冷たく叩いた。


 帰宅後。

 洗濯機から、ピーッというけたたましいエラー音が鳴った。
 床にゆっくりと広がっていく汚水を目の当たりにしたら、絶望のため息を吐かずにはいられない。

「調子悪かったけど、今壊れることないじゃない……」

 ここ数日は残業続きで、ろくに洗濯する時間だってなかった。これじゃ明日、着ていく服がない。
仕方なしに洗濯物を色付きのビニール袋に詰め込むと、近所のコインランドリーに向かった。


 午後十一時。

 アスファルトの地面に叩きつけられる激しい雨の音に、派手な水飛沫とともに通り過ぎていく車の音が重なる。いつもの街のあかりが、輪郭がぼやけたフレアのように白く滲んでゆく。

 滲む視界の先に見えたのは、無機質な光に包まれ、ぼんやりと浮かび上がるコインランドリー。まるで世界から切り離された小さな箱が、私を待っているみたいだった。

 傘をたたみ、カラカラとコインランドリーの引き戸を開ける。

「──え?」

 どこかからかすかな歌声が聞こえた気がして、私は足を止めた。

 視線の先、コインランドリーの奥。まるで、地上に落ちてきた天使みたいなヒトが、照明の下に佇んでいた。