頬を、後から後から涙が滑り落ちる。にじむ視界に薄紅の花びらが、いちまい、にまい、ひらりひらりと舞い踊る。月が冴え冴えと影を伸ばす夜の中、桜の枝は静かに佇む。花の大半を落とした枝。しかしそれでもなお、月に向かって伸びる枝は美しい。
ひたひたと夜の冷たさが染みた簀子を于子は歩く。透渡殿の柱を伝って崩れるように座り込んで、桜の木を見上げる。まさみちさま、と声にならない声で呟いた。
ものがたりの中のような美しい景色。美しい景色を見つめる貴いひと。
私は、夢を見ていたのだ。
この景色は、私のものではなかったのに。
涙の絡んだ咽び声が喉から零れたその刹那、背中側から布を引きずる音がした。振り返ると、夜の闇に溶けるようにしてそこにいたのは式部だった。涙の筋を頬につけたまま于子が動きを止めると、血のように紅いくちびるを静かに結んで、式部は于子の前に膝を突く。そうして、于子と眼差しを合わせた。
ひたひたと夜の冷たさが染みた簀子を于子は歩く。透渡殿の柱を伝って崩れるように座り込んで、桜の木を見上げる。まさみちさま、と声にならない声で呟いた。
ものがたりの中のような美しい景色。美しい景色を見つめる貴いひと。
私は、夢を見ていたのだ。
この景色は、私のものではなかったのに。
涙の絡んだ咽び声が喉から零れたその刹那、背中側から布を引きずる音がした。振り返ると、夜の闇に溶けるようにしてそこにいたのは式部だった。涙の筋を頬につけたまま于子が動きを止めると、血のように紅いくちびるを静かに結んで、式部は于子の前に膝を突く。そうして、于子と眼差しを合わせた。
