肌寒い空気に目を覚ますと、部屋は薄暗かった。窓の外を見てみると、空は紺色に染まり始めている。
一体僕は何時間寝てしまったんだ。と若干の後悔に襲われながら、ベランダに出る。
空は午前と姿をまったく変え、雲一つ無い宵の口が広がっていた。西の空はわずかに白さを帯び、東の空は眠りにつこうとしている。
星は見えないか、と空を見つめていると、西の空に宵の明星が浮かんで見えた。
「急げ、急げー」
遠くの方から、家路を急ぐ子供の声が響いている。僕はフッと微笑み、頬杖をついてパタパタと木霊する足音を聞いた。
何気ない日常を見守る自分と、星になっても自分を見守り続ける父さんと祖父を重ね、「僕もいつかは......」と物思いにふける。
気付けば空には、幾つもの星が瞬いていた。その中にはもちろん、父さんのような赤い星も浮かんでいる。
「見おろす星、もしもあれが、君ならば、千代をかけても、会いにゆこう」
赤い星に手を伸ばすも、やはり届かない。きっと、父さんがどんな思いでこの歌を詠んだのか、と叫んでも、この声は届かない。
でも、自分も星になったとき、きっとまた、あの大きな背中に寄りかかれるはずだ。
きっとそこまでの時間はとても、苔が生すほどに長い時間だ。
「苔が生すくらいの時間をかけて、父さんの残した思いをすくうから、待っててね」
何億光年と離れた父さんの星は、静かに光を発している。
FIN.



