苔のむすまで

 紙の端の方を見ると、一度グシャグシャに丸められた後、広げられたかのようにしわくちゃ。
 さらに、水のようなものが滴ったような跡がある。

 ただ事ではない雰囲気にためらいつつも、怖いもの見たさにそのページをあける。

 そこには、所々滲んだ字で、こう詠まれていた。

「見オロス星 モシモアレガ 君ナラバ 千代(ちよ)ヲカケテモ 会イニユコウ」

 この本は後ろにいくにつれて紙の色が()せてきている。このことから考えるに、この歌が詠まれたのは、僕が生まれてすぐだろうか。

 僕がまだ自分の名前も言えない頃、一体何があったのだろう。

 ひょっとしたら、祖父が歌として、父さんに何があったのかを残してくれているかもしれない。父さんに少しでも近づきたい、という思いでページをめくる。

「いっそもう こぼす子の背に 過去重ね 肩に手伸ばすも 心中に影」

 心中、という言葉に一瞬、自分の目を疑ったが、確かに墨の字は、(にじ)みもかすれもせずに「心中」と示していた。

 他にもヒントになりそうな歌は、と探すが、それらしきものは、この本にもう無かった。

 おぼろげな記憶の中には、父さんと祖父の微笑みしか映らない。あの笑みの後ろには、どんなに苦しい道が広がっていたのだろう。

 どんなに知りたいと思っても、持っている手がかりはこの本一つだけという事実が、もどかしくて仕方なかった。

 やるせない気持ちで本を閉じ、自分のわきに置く。本は柔らかい布団に音も立てず着地した。