『桜坂商店街』、通称、『猫だまり日和商店街』。
この商店街は古き良き時代を残したまま、時間が止まってしまったかのような場所だ。
商店街の中にはいろいろな場所で、猫が日向ぼっこをしている。だから、通称『猫だまり日和商店街』。
商店街の入り口には『桜坂商店街』のアーチ看板があり、商店街に一歩足を踏み入れると、メインストリートの両脇には、八百屋や果物屋、古い本屋に昭和の時代から続いているレストラン。花屋に駄菓子屋、金物屋などが連なり、レトロな雰囲気を醸し出していた。
そこには、何十年も前から変わらない世界観が広がっていて、その中で猫たちが気ままに眠っている。
猫たちは店の軒下だっだり、屋根の上だったり。ポストの上でくつろいでいる猫もいる。
商店街の人たちと猫は、お互いの存在を尊重し合いながら仲良く暮らしていた。
この猫だまり日和商店街には、コンビニなんてないし、ファミレスもない。
しかし、この商店街はこの地域で暮らす人々にとって、なくてはならない場所なのだ。
夕方になると、学校帰りの学生や、親子連れで賑わう。不思議と人と猫が集まってくる商店街。
ここは、昔ながらの下町の良さが残されている、憩いの場なのかもしれない。
俺、は倉澤瑛太、高校三年生。
家族との生活が窮屈で、実家から少し離れた商店街のすぐ近くにあるアパートで一人暮らしをしている。
一人暮らしの俺が心配なのか、色々世話を焼いてくれる商店街の人たちと、野良猫たちに囲まれて平穏な日々を送っていた。
そんな平穏な日々は、突然引っ越してきた『あいつ』のおかけで、ガラガラと音を立てて崩れていく。
「ひさしぶりだね、瑛太君。俺、この商店街に引っ越してきたからよろしくね」
引っ越してきたのは、一つ年下で、俺が小さい頃よく遊んでいた神田湊だ。
「よろしく」と人懐こい笑顔を見せる湊は、幼い頃の面影はそのままで、イケメンへと成長していた。おまけに俺が見上げないと視線が合わないくらい背も高い。
人付き合いが面倒くさい俺からしてみたら、本当に厄介な存在だ。
そんな湊が俺に向かって微笑みかける。
それはまるで真夏の太陽に向かって咲く向日葵のようにキラキラしていて、思わず後退ってしまった。
「俺の初恋、瑛太君なんだよね。だからこうやって瑛太君とまた会えて嬉しいなぁ」
「へぇ、そうなんだ……」
俺はあまりにも突然の告白に「突然なんなんだ、こいつ」と思わず顔が引き攣ってしまう。
「今、瑛太君は好きな子とか、付き合ってる子はいるの?」
「べ、別にそんな子はいないけど……」
「そっか、じゃあ今がチャンスだね」
「チャンスってなんだよ?」
「そんなの決まってるじゃん。瑛太君を俺のものにするチャンスだよ」
「ふ、ふーん……」
俺は何気ないそぶりを装ったけれど、鼓動はうるさいくらいに高鳴っていた。
(面倒くさいことになりそうだ……)
食べかけのアイスが溶けて、ポトリと地面に落ちた。
あぁ、アイスの当たりかハズレかを見るの忘れた──。



