「瑛太君? 桐谷先輩って誰?」
「桐谷先輩? あー、去年まで写真部の部長をやってた人だよ」
「ふーん」
「は? 急に桐谷先輩がどうしたの?」
俺と湊は商店街の駄菓子屋でアイスを買い、食べながら帰宅している途中だった。
そんな時に突然湊の口から飛び出した懐かしい名前。
でも桐谷先輩のことを、なんで湊が知っているんだろう? 冷静になって考えると、疑問が湧いてくる。
桐谷先輩と湊に接点はないはずだ。
湊の顔を見ると明らかに不機嫌そうで。
(めんどくさい……)
俺は咄嗟にそう感じた。
せっかく買ったアイスの味を堪能しようと思っていたのに……。
このアイスには棒のところにくじがついていて、「当たり」か「はずれ」と書いてある。当たりが出るともう一本もらえるから、食べ終わるまでのお楽しみだ。
俺が子どもの頃からあるアイスで、今もよく食べている。
それなのに……。
湊の口から突然飛び出した桐谷先輩という名前と、不機嫌な湊を目の前に、一気にその楽しい気持ちがどこかへ飛んで行ってしまった。
「瑛太君、桐谷先輩っていう人と仲が良かったんだってね?」
「あー、うん。桐谷先輩には良くしてもらったかな?」
「やっぱりそうなんだ!」
桐谷先輩は、写真部の中で唯一プロのカメラマンを目指している人だった。
しかも、こんな人間嫌いの俺とも仲良くしてくれるような、優しい人で――。俺も桐谷先輩には心を開くことができていた。
学校帰りに少し遠回りして、写真を撮ったこともあったっけ。
そんな桐谷先輩は、プロのカメラマンを養成する専門学校に進学して、今もきっとプロのカメラマンを目指すべく、頑張っていることだろう。
「突然桐谷先輩がどうしたの?」
明らかに不貞腐れている顔をしている湊の顔を覗き込む。
いつもは素直な湊がこんな風に拗ねてしまうと、手のつけようがないのだ。
俺は大きく息を吐く。
あー、もうめんどくさい。今日は早く「バイバイ」しようと思ったとき、湊が口を開いた。
「今度卒業生が学校に来て、進路について教えてくれる説明会があるんだけど、その中に桐谷先輩の名前があったんだ」
「じゃあ桐谷先輩が進路説明会に来てくれるの?」
「そう」
進路説明会に桐谷先輩が来る――。
別に湊が不機嫌になるところなんて、どこにもないじゃないか? 俺は首を傾げて、色々考えてみたけれど、答えは見つからなかった。
「ねぇ、湊、桐谷先輩がどうしたの? 湊と桐谷先輩は関係ないじゃないか?」
「…………」
「湊……」
俺が湊の制服の裾を掴み引っ張ってみても、立ち止まってはくれない。どんどん先を歩いて行ってしまう。
俺は何がなんだか分からず、途方に暮れてしまった。
その時、湊がぽつりぽつりと話し始めた。
「写真部の奴らが、瑛太君と桐谷先輩は凄く仲が良かったって言ってた」
「だからそれは、先輩と後輩の関係で……」
「普段、他人と壁を作って誰とも仲良くしない瑛太君が、桐谷先輩とだけ仲良くするなんて……。そんなのおかしいじゃん」
「湊……」
「瑛太君にとって、桐谷先輩はそんなに特別な存在だったの?」
今にも泣き出しそうな顔で俺のことを見る湊を見て、彼が不機嫌な理由がようやく分かった気がした。
(湊、桐谷先輩にヤキモチ妬いてるんだ……)
湊は真剣に悩んでいるのかもしれないけれど、そんな子どもじみたところが可愛らしく感じられる。
「俺だけが瑛太君の特別でいたいんだ」
「湊は俺の特別じゃん?」
「そうじゃなくて、瑛太君には、俺以外の奴と仲良くしてほしくないんだ。瑛太君が仲がいいのは、俺だけでいい。それじゃ駄目なの?」
「湊、桐谷先輩とは別に仲が良かったわけじゃ……」
「でも面白くない!」
湊はそう言うと、俺に背を向けてしまう。
(困ったな……)
俺はこんな時にどんな言葉をかけたらいいのかがわからない。
だから、強く握りしめられている湊の手をそっと握る。
(もう、怒らないで……)
そんな思いをこめて。
「瑛太君なんて嘘つきだ」
「なんで俺が嘘つきなんだよ?」
「だって、友達なんかいないって言ってたじゃないか?」
「桐谷先輩は友達なんかじゃないよ」
「でも、瑛太君にとって特別な人でしょ?」
「…………」
俺が何も言い返せずに俯くと「やっぱりね」と大きく息を吐く。それから、湊のことを掴んでいた手を、そっと払い除けられてしまった。
「俺だけが、瑛太君の特別でいたかったのに……」
「じゃあ俺は、誰とも関わらずに生きていけって言うのかよ?」
「できればそうしてほしいよ。だって、俺だけが瑛太君の特別なんだから。今も、これからも……」
「そんなのただの我儘じゃん」
「我儘って言われたっていい……」
そう言った湊が唇を噛み締める。
今にも泣きそうな顔をするものだから、俺の心が締め付けられた。
「桐谷先輩、明日ちょうど活動日だから、写真部にも顔を出してくれるって」
「そうなんだ」
「あ、今ちょっと嬉しそうな顔をした」
「だから、してないって」
「してたよ! やっぱり瑛太君は俺より桐谷先輩のほうがいいんでしょ?」
「確かに、桐谷先輩はこんなことでヤキモチは妬かない、大人だったよ」
「ガキで悪かったな、ガキで!」
「だから、そんなことは言ってないだろう⁉ いい加減わかれよ」
「わかんないよ!」
普段はしっかりしている湊が駄々をこねるものだから、俺も困り果ててしまう。最後の方は怒鳴り合いの喧嘩になってしまった。
結局、気まずい雰囲気のまま、その日は湊と別れる。
いつもなら笑顔で「バイバイ」と手を振ってくれるのに、今日の湊は不貞腐れたように「またね」と言って、アルタの中に入って行ってしまう。
「なんだよ、あれ」
イライラしてしまった俺は、またアイスが当たったか、棒を確認するのを忘れてしまった。
◇◆◇◆
進路説明会の当日の昼休み。湊はかなり不機嫌だった。
気分が悪いのであれば屋上に来なければいいのに、わざわざ昼休みに屋上に来て怒っているのだ。
「桐谷先輩の説明を聞いたけど、優しそうな人だった。あと、説明もわかりやすかったよ」
「そっか」
「桐谷先輩、プロのカメラマンを目指して専門学校に通学しているらしいね」
「へぇ……」
「知ってたくせに。瑛太君はああいう、優しい年上が好きなの?」
「へ?」
「年下の俺より、年上の桐谷先輩の方が好きなんでしょ?」
「だからさぁ……」
そんなことないよ、と言いかけた言葉を俺は飲み込む。きっと今の湊には何を言っても伝わらないだろうから。
湊って、案外ヤキモチを妬くタイプなんだということを初めて知った。
最初のうちはそのヤキモチも「可愛い」と思えたけれど、今はそんなことを思う余裕さえなくなってしまっている。
せっかく頑張って作った焼肉弁当の味がしない。
俺は空を見上げて大きく息を吐く。あー、面倒くさい。
だから人付き合いは苦手なんだ。
「放課後、部室に顔を出してくれるらしいから、楽しみだね」
「そうだね」
その後しばらく沈黙が続く。
もし、俺が桐谷先輩と同じ専門学校を受験したら、湊は一体どうするんだろうか? また子どもみたいに駄々をこねられたら困ってしまう。
大体、湊は俺のことが本当に好きなのだろうか? ただの独占欲で、桐谷先輩を嫌っているようにも感じられた。
(あー、本当に面倒くさい)
そんな沈黙を破ったのは湊だった。湊は持っていた箸を膝の上に置き、ポツリと呟く。
「ごめんね、こんな風にヤキモチを妬いて」
「いや、別に……」
「やっぱり桐谷先輩みたいな大人の人のほうがいいよね? こんなガキよりも……」
仲直りどころか却ってその場の空気が重くなってしまう。
そんな俺を助けてくれるかのように、午後の授業開始のチャイムが鳴り響いたのだった。
それから約束通り、桐谷先輩は部室に顔を出してくれた。
元々面倒見のいい先輩だったから、桐谷先輩は一気に部員たちに囲まれてしまう。そんな部員たちに少しだけ困った顔をしながらも、「みんな久しぶりだね」と笑いかけている。
桐谷先輩は少しだけ大人びた表情になっていた。きっと、プロのカメラマンを目指し、本格的に頑張っているのだろう。俺の知っている桐谷先輩とはまた違う、逞しい顔つきをしていた。
でも、桐谷先輩の顔を見た瞬間、色々なことを思い出す。
卒業式の日は本当に悲しかったなぁって。でもまたこうやって桐谷先輩と再会できたことが嬉しかった。
「瑛太、元気だったか?」
「はい! 桐谷先輩も元気そうでよかったです」
「お前この前高校生の写真コンテストで入賞してただろう? 凄いじゃないか」
「あ、あぁ、あれはモデルが良かったから……」
そう言おうとして部室の中を見渡したけれど、そこに湊の姿はなかった。
部活が終わってから二年生に湊のことを聞いたら「用があるから先に帰りましたよ」と言われてしまう。
(あー、予想はしていたけど、やっぱり帰っちゃったか……)
本当にヤキモチ妬きの湊……。
いつになったら機嫌を直してくれるのだろうか?
「瑛太。久しぶりに、これから少し学校の周りの写真を撮って回らないか?」
「あ、えっと……」
「用事があるなら、無理にとは言わないけど」
「いえ、大丈夫です。行きましょう。桐谷先輩、色々と教えてください」
桐谷先輩からの突然の誘いに、湊の顔が一瞬頭を過る。
きっと、俺と桐谷先輩が仲良くしているのを見たくなくて、さっさと帰ってしまったのだろう。そう考えると、怒りが沸々と湧いてくる。
(そんなガキみたいな奴のことを気にする必要もないか)
そう気を取り直した俺はカメラを持って、先輩と一緒に出掛けたのだった。
◇◆◇◆
その日から、湊との間に距離ができてしまった。
学校の廊下ですれ違っても軽く会釈をされるだけで、いつものように「瑛太君!」と嬉しそうに近寄ってくることはない。
一緒に弁当を食べることもなくなったし、会話すら交わさなくなった。
もしかしてメールがきてるんじゃないかって、スマホを確認してみるけど……期待外れに終わった。
「湊の馬鹿野郎……」
移動教室の時に、二年生の教室を覗けばクラスメイトたちと楽しそうに話す湊に、ギュッと胸が締め付けられる。
こんなに俺はイライラしているのに、何事もなかったようにヘラヘラしている湊を見れば、泣きたくさえなってしまう。
(なんだよ、これ……)
心がグチャグチャに掻き乱されて、苦しかった。
ただわかってる。湊は純粋にヤキモチを妬いただけだったんだ。でもここまで拗れてしまうと、どうしたらいいかわからなくなってきてしまう。
『この前は言い過ぎてごめん。でも本当に桐谷先輩とは何もないんだ』
湊を見かける度に、スマホを手に取る度に、零れ落ちそうになる言葉。
「ごめん」って喉元まで出てくるのに、口にすることができない。
そっと手を握ってみようか?
後ろから抱きついてしまおうか?
そう思っているのに、できなくて……。体が戸惑っているのがわかる。
湊は俺のことが純粋に好きで、桐谷先輩にヤキモチを妬いた。
もしその時に「俺が大事なのは湊だよ」って素直に言ってあげられたらよかったんだろうけど……。俺にはそれができなかった。
素直になることができなかったんだ。
◇◆◇◆
アパートのベランダから空を見上げる。それから大きく息を吐いた。
もう空は真っ暗で、星がキラキラと瞬いている。商店街には明かりが灯って凄く綺麗なのに……そんな夜景がユラユラと滲んで見える。
先ほどから子供を連れた猫が、俺の部屋のベランダでくつろいでいる。そんな商店街の猫に癒される毎日。
俺は親子連れの猫の写真をそっとスマホに収める。このスマホの中には、商店街の猫の写真がたくさんある。どの子もみんな可愛くて、人懐こくて大好きなのだ。
湊と口をきかなくなってから、体が鉛のように重たい。頭も痛いし食欲もない。睡眠だって浅いし、自分の周りの世界がくすんで見えた。
「湊、ごめん。ごめんな」
俺はベランダに蹲る。
独りぼっちは寒いのに、いつも隣にあった温もりはない。親猫が心配したのか「ニャア」と鳴きながら体を擦り寄せてきた。
「寒いし寂しい……」
洋服に温かな涙が染み込んでいく。そんな時。
玄関の呼び鈴が鳴る。
(こんな時間に誰だろう)
俺の家を訪ねてくる人なんていないし、宅急便が届く予定もない。
俺がドアの前まで行くと、「瑛太君、俺だよ、湊」。そんな弱々しい声が聞こえてきた。
「湊……?」
「うん。瑛太君、鍵を開けてくれる? 話したいことがあるんだ」
「……わかった」
俺が玄関の扉を開けた瞬間、外からの冷たい風が吹き込んでくる。それと同時に、湊が俺に飛びついてきた。
俺は尻もちをつきそうになるのをなんとか堪えて、湊の大きな体を受け止める。
「瑛太君、ごめん」
ギュッと温かなものに抱き締められる。そしてフワリと甘い香りに包まれた。
「ごめんなさい」
「湊ぉ……」
久しぶりに感じる湊の温もり。力が強いくせに、まるで硝子細工を扱うように触れてくる。
そんな優しい腕。
やっぱり温かい……。そんな湊の腕にギュッとしがみついた。
「瑛太君、見て? この花」
「ん?」
「佳奈さんに教えてもらって、今買ってきたんだ」
必死にしがみついていた湊が、花を持っていることに気付く。
「見て?」
そっと目を開けば……。
マーガレットだろうか? 黄色と白の花弁がついた小さな花が数本、可愛らしくラッピングされていた。
「綺麗な花……それにいい香り……」
「でしょ? これ、カモミールだよ」
そのままもう一度抱き締めてくれる。久しぶりに感じた湊の体温と匂いに、心臓が甘く高鳴る。
「カモミールの花言葉は『仲直り』だって」
「仲直り……」
「そう。ずっと瑛太君と仲直りしたかったのに、素直になれなくて……。ごめん、瑛太君」
「湊……」
「寂しそうにしてる瑛太君を見て、いつも頭を撫でてやりたいって思ったし、抱き締めてやりたいって思った。寂しかった、瑛太君……んッ……」
それはもう、無意識だった。
首に腕を回してそっと抱き寄せる。湊の吐息を頬に感じたからそっと目を閉じて……その唇を奪った。フワリと柔らかい感触を唇に感じて、トクンと心臓が跳ね上がる。
唇が離れた瞬間に、至近距離で視線が絡み合った。
一気に頬が熱くなったから慌てて湊から体を離そうとしたら、力強い腕に捕まってしまい、もう一度チュッと唇が重ねられる。
何度か啄まれたあと、名残惜しさを残して温もりが離れていった。
「馬鹿、湊ぉ……寂しかった……」
「本当にごめん。くだらないヤキモチを妬いて……」
湊が俺のことを、息もできないくらいギュッと抱き締めてくれる。
「本当だよ、桐谷先輩とは何もないって言ってるじゃん」
「わかってる。でも瑛太君が他の人と仲良くしてるのが面白くない。瑛太君が一番一緒にいる時間が長いのも、一番好きなのも、一番大切にしているのも、俺じゃなきゃ駄目なんだ……」
「そんなの、ただの我儘じゃん」
「わかってる。でも俺は瑛太君の『初めて』が全部欲しい。初めて誰かを好きになったのも、手を繋いだのも、抱き締められたのも、キスをしたのも、エロいことをしたのも……」
「エロいこと……」
「そう、俺は瑛太君の初めてが全部欲しい。その代わり俺の初めても全部あげるから」
湊がクスンと鼻を鳴らす。
「不安にならなくても、俺の初めてを全部湊が奪っていってるじゃん」
「わかってるけど、不安になる。だって、瑛太君が大好きだから」
湊がそう言いながら、優しく頭を撫でてくれる。耳元では低くて優しい声……。湊の全てに体が震えるほど反応してしまった。
「大好きなんて、そんな簡単に言うなよな」
「簡単じゃないよ。俺は本気でそう思ってるんだから」
いつの間にか溢れ出た涙を大きな手で拭ってくれる。その感触に心がスルッと解けてしまいそうになる。うっかり……全てを曝け出しそうになってしまう。
「俺以外の前で、素直に涙を流せない瑛太君も、可愛いね」
「アホ。お前の前だから泣くんだよ。誰が他の奴の前で泣くか、気持ち悪ぃ」
「なら、たくさん弱って。俺が全てを受け止めるから」
湊が俺を気遣ってか、遠慮がちに抱き締めてくれる。抱き締められて気持ちいいな……って思っていたのに、突然体を離されてしまう。
それを合図かのように湊が静かに目を閉じたから、俺も目を閉じた。
フワリともう一度唇に柔らかいものが触れた瞬間、トクンと心臓が飛び跳ねる。
こんな触れるだけのキスなのに、体が蕩けてしまいそうに気持ちがいい。湊の制服をギュッと握り締めた。
「なぁ、湊……。お前は恋人じゃない奴とキスするのか?」
「するわけないじゃん。それが一般常識でしょう?」
「じゃあ恋人とはキスするんだ?」
「……それ、どういう意味?」
「……それは、俺が聞きたい」
湊がいつになく真剣な顔で俺を覗き込んでくる。
「瑛太君って、もしかして俺のこと……」
「ん?」
あまりにもキスが気持ち良くて、湊の体温が心地よくて、頭がボーッとしていて。自分が何を言っているのか、湊が何を言いたいのかもわからない。
ううん、それだけじゃない。
心の中がグチャグチャで、湊のことで頭がいっぱいで……。
自分が何を考えてるのかさえわからなくなっていた。でも苦しい。苦しくて仕方ない。
「ううん。何でもない。ただね、待とうとは思ってる。超がつくくらい鈍感な瑛太君が自分の気持ちに気付くまで……」
「ん?」
「なんでもないよ」
湊の声が心地よくて、抱き締めてもらうと温かくて……。
俺は自分の気持ちに素直になれないけれど、ずっとこの腕の中にいたいと思った。
「瑛太君を独り占めしたい。そしたら、大きな檻を買って閉じ込めちゃおうかな? もう俺以外の奴を見ないように。瑛太君を独り占めしたいから……」
「それもいいかもな」と言いかけたけれど、俺は口を噤む。
だってそんなことを言ったら、俺だって湊に独占されたいと思っているみたいで恥ずかしいじゃないか?
でもそれ以前に、そんなことを天邪鬼な俺が言えるはずなんてない。
「早く気付いてよ。俺、もうそんなに待てないかも……」
湊の苦しそうな声が耳元で響く。
俺も「湊が欲しい」って、素直に言えたらな……って、いつも思う。
湊のことが好きなのかな? と思う自分と、それを否定したがる自分がいる。
だって、俺みたいな性格の人間が、恋なんてできるはずがない。
でも、俺は……。
甘いカモミールの香りが、そんな俺達を優しく包み込んでくれる。
(あとで、このカモミールの花の写真を撮ろう)
俺の大切な写真が、また一枚増えることが嬉しかった。



