ピピピッ。
「まだ三十七度六分か……瑛太君、俺、買い物に行ってくるけど、何が食べたい?」
体温計を見た湊が顔を顰める。それから俺の髪をクシャクシャと撫でてくれた。
湊はやっぱり優しい。気遣いとか配慮が半端ない。
「冷たいアイスノンに交換しよう? ほら、頭上げてよ」
「んー? ありがとう」
「今日が土曜日でよかった。ずっと一緒にいてあげられるから」
「べ、別に子どもじゃないんだから、一人でも大丈夫だよ」
「もう可愛くないんだから。昨夜なんて『寒いよ』って俺にくっついて寝てたくせに」
「うるさい」
気恥しさを感じた俺は、寝返りをうって湊に背中を向ける。
(昨夜ずっと隣に感じていた温もりは、湊だったんだな……)
寒かったから、その温もりに夢中でしがみついた記憶がある。今思えば、恥ずかしくて死にそうだ。
「瑛太君の寝顔可愛かったなぁ」
「な、何言って……」
「手を出さずに一晩耐えた俺の理性を褒めてよね。しかも、あんな映画を見た後に」
腰に手を回され後ろから抱き寄せられる。湊の温かな吐息を感じたから、思わず布団を握り締める手に力を込めた。
「それとも、手を出されたかった?」
「な、なんだよそれ⁉」
「ちょっと残念そうな顔をしてるから。今から手を出そうかなって?」
チュッと首筋に柔らかなものが触れた瞬間、髪が逆立つような感覚に襲われた。
「湊、俺が弱ってるからって調子に乗んなよ?」
「だって、弱ってる瑛太君可愛い……」
「本気で怒るぞ?」
「えー、一晩、一生懸命看病したのに……。首にキスしたくらいでそんなに言わなくてもいいじゃん……」
クスンと鼻を鳴らす音が聞こえてくる。
「瑛太君、怒らないで」
「駄目だ」
「そんなぁ……」
「めちゃくちゃ怒ってるから、一時間口きいてやんない」
「あははは。一時間かぁ……。でも、今の俺には長いなぁ」
こんな何気ないやり取りが、凄く好きだ。
どんなに可愛げがなくても、口が悪くても……湊は笑って許してくれる。それさえも受け止めてくれる。それが心地いい。
「買い物行ってきます。何が食べたいですか?」
「んん……牡蠣雑炊」
「あ、口きいてくれた」
「湊の馬鹿野郎」
「ふふふっ」
甘えた声を出しながら背中にピタッと抱きついてくる。こうされてしまうと、さすがの俺も「離れろ」なんて言えない。
湊がどう思っているかはわからないけど、俺は買い物に行ってほしくなかった。ほんの少し離れるだけでも、寂しく感じられたから……。
「行ってきます」
優しい声が鼓膜に響いて、夢の中に誘われていく。
俺は滅多に熱なんて出さないから心細くなってくる。
「湊、早く帰ってきて」
それでもクンクンと少し息を吸い込むだけで、湊の匂いがした。
布団も枕もクッションも……。少しずつ、俺の家が湊の色に染まっていく。
それが嬉しいけれど、なんだか恥ずかしい。
『瑛太君、何か必要なものある?』
湊から届くメールが擽ったい。最近は誰かに看病をされたことなんてなかったから。
『ココアが飲みたい』
『子供みたいだね。了解。お腹冷やさないように、ちゃんと布団掛けて寝ててよ』
『バァカ』
そんなメールのやり取りに、目を細めた。
「こんな湊の匂いがする部屋にいたら、余計熱が上がりそう……」
火照る顔を両手で押さえて、枕に顔を埋めた。
「湊、早く帰ってこいよぉ」
映画みたいな恋はできないけど、こんなドキドキも悪くない……かもしれない。



