今日もおいしくいただきました!

 テスト期間中は午前中で終わるため、弁当作りはお休みだ。
 だからインスタに投稿するものもない。
 なのに、あの人とのDMでのやり取りは続いていた。
 テスト中は止めようと思ったけど、気づけばDMを開いて文章を打っていた。

――今絶賛テスト中です。でも息抜きにお話しさせてください。僕が毎日投稿している弁当をある人も好んで食べてくれていました。  だから僕はいつも多めに詰めていました。美味しそうに食べてくれる姿が嬉しかったです。でももうその役目も終わりました。僕は余分に詰める必要も無く僕しか食べない弁当を毎日作っています。でもあなたのコメントに救われています。あらためていつもありがとうございます

 お礼を言ってなかったことを思い出した。
 そう、僕は救われているんだ、この人に。
 たった一言なのに、何十倍もの重みを感じさせてくれていた。

――あなたの弁当を毎日見るのが楽しみです。愛情をこめて作っているのがわかるから。それを食べた人は幸せですね。今でも食べたいと思っているのではないでしょうか?

 そうだといいけど……
 でも、もう僕がすべきじゃないことはわかっている。
 毎日、一緒に食べているだけで満足しないと。

🔸🔸🔸

「終わったー! やっとテストから解放された! 秋吉、帰りどっか行こうぜ」

 地獄の五日間が終了した。
 後は、クリスマスと冬休みを残すのみ。

「あ、これ。ありがとう。ゴメン、ずっと渡せなくて。クリーニングに出してたから」
「なんで、クリーニングなんていいのに。お前の匂いがついていても全然気にしないよ」

 そういう話じゃなくて……
 僕はそれには答えずに、マフラーを渡した。
 圭斗が渡されたマフラーに一瞬目を落とす。

「で、どこ行く?」
「橋上くん、呼んでるよ」
「は?」
 
 二人で後ろを振り向くと、田端先輩が立っていた。
 そうだ、三年生だって今日でテストは終わりだ。
 僕は圭斗の顔が見られなかった。
 嬉しいのを隠そうと、わざと不機嫌な顔をしているんだろうなと想像するだけで、なんだか気が滅入った。
 圭斗は乱暴に椅子を引くと、先輩の元に歩いて行く。
 僕はその後姿を確認すると、カバンを持って前のドアから教室を出た。

 駅に向かう生徒の流れに身を任せる。
 圭斗と行ってみたいカフェがあった。
 僕たちが好きな塩キャラメルラテの進化版が飲めるという噂だった。
 でも、田端先輩と行っているかもな……
 僕は先輩に圭斗は甘いものは好きじゃないと嘘を吐いたけど、二人で過ごす時間が増えれば、圭斗が好きなものはわかっていくはずだ。

「堤くん!」
「ああ、牧田さん」
「やっとテスト終わったねー。はー、しんど。どう、今回もトップ狙えそう?」
「まさか! そこまで成績良くないよ」
「そうだっけ? でも十位以内には入っているでしょ」
「まあ……ね」
「そうだ、聞いてる?」
「なにを?」

 牧田さんは急に僕に顔を近づけると、小さな声でささやく。

「先輩のご機嫌が最近悪くてさー、橋上くんと上手くいってないんじゃないかって話」
「え!」
「声が大きいよ。橋上くんから聞いてない? っていうか二人で恋バナってする?」
「あ、しない……かな」

 恋バナなんてしたことない。
 っていうか、圭斗の口から田端先輩の田の字すら聞いたことない。
 僕が聞かないのがいけないのか、圭斗が進んで話さないのがいけないのか……

「友達なんだよね? なんで? 男同士ってそういう感じ? いや、男同士って女の子の話しかしないイメージなんだけど……でね、まだ付き合って一ヶ月も経ってないのにって話なの」
「そ、そうなんだ。なんでだろ」
「ホント、なんでだろ? だよねー。先輩キレイだけど、ちょっと気が強いところあるじゃない? 橋上くんも硬派な感じするし、そういうところで我を張り合うっていうか、マウント取り合い? とかしてるのかな」

 牧田さんの想像力には感服する。
 圭斗は硬派には見えるけど、根は誰よりも優しい。
 それは僕が保証する。

「来週からの部活で、堤くん、先輩から相談されるかもよ。面倒だろうけどよろしくね。やっぱり先輩の機嫌が良い方が部活もうまく回るし」

 牧田さんは顔の前で手を合わせてわざとらしく肩をすくめた。
 先輩は僕に相談するだろうか、相談されても何も聞かされてない僕では対処のしようがないと思うけど。
 でも、どうして圭斗は先輩との話をしないんだろう。
 付き合いたてなら、浮かれていてもおかしくないのに。
 圭斗は今までと何も変わらない。
 それが、かえって不思議だった。
 僕に気を遣って、わざとフツーに振舞っているのかもしれない。
 だとしたら、圭斗に悪い気もしてきた。
 だって、彼が何でも話せる相手は恐らく僕しかいないはず。
 だったら思う存分、僕が聞いてあげないと。
 って思った途端、体温が急に下がったような気がした。
 僕は頭ではそう思いながらも、身体が全力で拒否している。
 親友ってなんだろ……

🔸🔸🔸

――なんで何にも言わずに帰ったんだよ! どっか行こうと思っていたのに

 家に着くと、圭斗からLINEが入っていた。
 だって、先輩が来ていたじゃないか。
 一方的に圭斗に言われることに腹が立った。
 僕が気を利かしたのがわからないのかよ!
 僕は既読無視にした。
 さっきの牧田さんに聞いた話も絡まって、若干面倒くさくなっていた。
 僕を巻き込むな!

「秋くん、明日大丈夫? やっとテスト終わって一休みできるのにお母さん、無理言ってごめんね」
「大丈夫。解放感MAXだから、なんでもやるよ」
「ありがとう」

 明日、土曜日はお母さんの料理教室のアシスタントをする。
 いつものアシスタントさんが急用でお休みになった為、僕がピンチヒッターに選ばれた。
 正直、緊張するけどお母さんに頼られるのは嬉しい。

「でも、僕みたいな素人で大丈夫なの?」
「大丈夫よー。秋くん、基本が出来ているし、何よりも気が利くから、お母さん頼りにしているの」
「邪魔しないようにするね」

 LINEの通知音が鳴った。
 たぶん、圭斗だ。
 僕が既読無視したことが気に入らないのだろう。

「鳴ってるよ? 出ないの」
「うん。大丈夫。で、明日は何を作るの?」
「明日はねえ……」

 お母さんの話を聞きながらも、LINEが気になって仕方がなかった。

🔸🔸🔸

――テストが終わりました。また来週から弁当作りを再開します。感想をお願いします。今日嫌なことを聞きました。ある人がある人と上手くいってないという話です。でも僕はある人からその話は聞いていません。僕が聞いてあげないのがいけないのでしょうか。 僕の気持ちは複雑です。聞いてあげないと、でも聞きたくない。親友として僕は失格です。

「ちょっと書き過ぎたかな……まあ、いいや」

 僕は送信ボタンを押す。
 もうあの人に自分の気持ちを隠す必要はないように思っていた。
 だって、僕のセラピストだから。
 勝手にそう位置づけているだけだけど。
 でも、ここで吐露することで僕のメンタルは安定していた。
 インスタの通知音が鳴った。

「えっ、早っ!」

――親友でも何でも話せるわけではないかもしれません。本当に聞いて欲しいことと耳に入れて欲しくないことがあると思います。でもあなたは優しいですね。そんな親友をもっているある人がうらやましいです。

「そうなの? そうなのかな……」

 僕はこのメッセージに促されるように、無視していたLINEを開いた。

――お前に聞いてほしいことがあったんだ。この間先生に呼び出しされたことで

『いやー、まさか呼び出しくらうとは思っていなかったからさ』
『え、呼び出しだったの? 何か悪い事?』
『いや、そうでもない。そのうちお前には話すよ』

 あの件のこと?

――ごめん。先輩とどこか行くのかと思って先に帰った。日曜日なら空いているよ

「あ、マズい!」

 急いで送った後に後悔した。
 日曜日は、きっとデートだ。
 ああ、本当に気が利かない!
 急いで訂正しようとすると、返信が来た。

――俺も空いている。じゃ、決まりな

 ハートに囲われたHappyのスタンプが送られてきた。