今日が年内最後の弁当を作る日だ。
明日の終業式は午前中で終わって、そのまま、圭斗が家に来て二人でクリスマスパーティーをする。
年内最後を何のおかずで締めようか、散々迷った末に生姜焼きに決めた。
だって、今日は圭斗の部活があるからお腹を満腹にさせてあげたくて。
タレに漬け込んでおいた、大量のロース肉を焼いていく。
生姜と、ニンニクと醤油の匂いが良いハーモニーを奏でる。
ブロッコリーをゆで卵とマヨネーズであえて、ミニトマトを周りに縁どる。
たこさんウィンナーを配置して、コーンを混ぜたご飯を詰めたら完成。
なかなかな、男飯になってしまった。
今日はサービスで、圭斗にも生姜焼きの他に、たこさんウィンナーを入れてあげる。
完璧!
――年内最後の弁当。今年一年ありがとうございました。来年も頑張ります!
今日もおいしくいただきます!
「で、俺は何を持っていけばいい?」
「え? 何も要らないから大丈夫」
「ふーん、わかった。あれだけ持っていくわ」
「あれって?」
「当日のお楽しみ。しかし、今日はいつにもまして大量だなー」
「今日が部活の締めだろ? だからお腹いっぱいにしてほしくてさ」
僕は生姜焼きを口に入れると、顔を上げた。
圭斗の箸が止まっている。
「どうかした?」
「俺って、愛されているなって噛み締めてる」
「やめろよ!」
圭斗は口を押えて、くっくっと笑っている。
僕は何でも思ったことを言葉にする圭斗に呆れつつも、心がポカポカしていた。
「今日、練習見に行ってもいいか?」
「いいよ。でもただ見ているだけだと寒いかもなー。この間みたいに風邪ひくなよ」
「大丈夫」
圭斗は一瞬、箸を持っていない方の僕の手を強く握ると、何事もなかったように弁当をかっ込んだ。
僕はあまりの早業に、笑いを堪えるのに必死だった。
🔸🔸🔸
既に日が陰り始めているグラウンドで、陸上部が練習を続けている。
決められた距離を何回も走り込んでいる姿は、どの選手も格好良い。
でも、僕の圭斗が一番だ。
え、今何て言った?
いや、恥ずかしい、恥ずかしい。
声に出したわけじゃないけど、そんなことをサラっと思っている自分が怖い……
だって、圭斗が『俺の秋吉』って使うから、つい出ちゃったじゃないか!
そして、また頭を振っているのに気づいた。
「はぁー。こんな寒空の下で何やってるんだよ……」
そういえば、あの人に相談していたことが解決したことを報告していなかった。
インスタを開くと、今朝の投稿に対してのコメントがなかった。
珍しいな……どうかしたのかな。
僕は気になりながらもDMを開いた。
――この間相談したことが解決しました。僕とある人は付き合っています。ある人からそう言われました。僕は素直に嬉しかったです。そういえば運動をされているんですか?この間の文章が陸上競技に使う言葉みたいでした。今ちょうど僕は陸上部の練習を見ています。今年最後の弁当の画像を載せました。来年もコメント楽しみにしていますね
自分で書いていて、何かが引っかかった。
そう、スタートダッシュとかウォームアップとか陸上競技っぽいよな……
「秋吉! 終わったよ。寒くないか?」
「あ、お疲れー。完全防備してきたから大丈夫」
「着替えてくるから。寒いから下駄箱のところで待ってろ」
「りょうーかいー」
🔸🔸🔸
「すごいよね、こんなに寒くてもあれだけの練習するんだね」
「まあな。でも夏よりかは楽かな。地獄だよ、真夏にスタートダッシュとか」
「え、ああ、そうだよな……。ねえ、ウォームアップってウォーミングアップのこと?」
「そう。ウチの陸上部ではウォームアップって使うかな。なんで?」
ずいぶん前に僕の頭の中で、なかなか組み立てられないバラバラなピースが浮かんだことがあった。
幾つかのピースは合致しそうなのに、それがどのピースなのかわからない。
でも、今それが……
「家まで送って行くよ」
「え? いいよ。この時間だと家の停留所から駅行きのバスの本数少ないから」
「でも、待っていてくれただろ。俺はもっとお前と一緒に居たい」
「……うん」
僕の家がある停留所で降りて、家までゆっくり歩く。
夜になると人通りがほとんどない住宅街は僕たちしか歩いていない。
自然と手を繋いで歩く。
圭斗の手が僕を強く引っ張ると、暗い脇道に入った。
「な、なに? どうかした」
圭斗は僕の頬を優しく包むと、唇を合わせた。
こんなところで、誰かに見られているかもしれないのに……
でも、僕の冷え切った身体にチョコレートのような甘くてトロリとした熱が染みわたっていく。
「ちょっと早い、クリスマスプレゼント」
圭斗が優しく微笑んだ。
僕は圭斗を抱きしめた。
「ありがと」
何事もなかったように脇道から出ると、僕の家の前で別れた。
また来た道を戻って行く圭斗を、後ろから抱きしめたい気持ちになる。
こんなにも圭斗のことが好きだ。
僕は姿が見えなくなるまで、その場を動けなかった。
🔸🔸🔸
――言葉にしないと伝わらないことはありますね。僕もちゃんと言葉にしようと思います。陸上競技をやっています。一年中、走っています。来年の弁当も楽しみです。
DMの返信。
やっぱり、陸上をやっている人なのか!
そのうち、弁当の投稿へのコメントも来るかな。
僕は明日の圭斗とのクリスマスパーティー用の料理の仕込みを始める。
さっきのキスが頭を過るけど、料理に集中しないと!
インスタの通知音が鳴った。きっとあの人からのコメントだ。
――今日もおいしくいただきました!
「……うん。今日もおいしくいただきました!」
了
明日の終業式は午前中で終わって、そのまま、圭斗が家に来て二人でクリスマスパーティーをする。
年内最後を何のおかずで締めようか、散々迷った末に生姜焼きに決めた。
だって、今日は圭斗の部活があるからお腹を満腹にさせてあげたくて。
タレに漬け込んでおいた、大量のロース肉を焼いていく。
生姜と、ニンニクと醤油の匂いが良いハーモニーを奏でる。
ブロッコリーをゆで卵とマヨネーズであえて、ミニトマトを周りに縁どる。
たこさんウィンナーを配置して、コーンを混ぜたご飯を詰めたら完成。
なかなかな、男飯になってしまった。
今日はサービスで、圭斗にも生姜焼きの他に、たこさんウィンナーを入れてあげる。
完璧!
――年内最後の弁当。今年一年ありがとうございました。来年も頑張ります!
今日もおいしくいただきます!
「で、俺は何を持っていけばいい?」
「え? 何も要らないから大丈夫」
「ふーん、わかった。あれだけ持っていくわ」
「あれって?」
「当日のお楽しみ。しかし、今日はいつにもまして大量だなー」
「今日が部活の締めだろ? だからお腹いっぱいにしてほしくてさ」
僕は生姜焼きを口に入れると、顔を上げた。
圭斗の箸が止まっている。
「どうかした?」
「俺って、愛されているなって噛み締めてる」
「やめろよ!」
圭斗は口を押えて、くっくっと笑っている。
僕は何でも思ったことを言葉にする圭斗に呆れつつも、心がポカポカしていた。
「今日、練習見に行ってもいいか?」
「いいよ。でもただ見ているだけだと寒いかもなー。この間みたいに風邪ひくなよ」
「大丈夫」
圭斗は一瞬、箸を持っていない方の僕の手を強く握ると、何事もなかったように弁当をかっ込んだ。
僕はあまりの早業に、笑いを堪えるのに必死だった。
🔸🔸🔸
既に日が陰り始めているグラウンドで、陸上部が練習を続けている。
決められた距離を何回も走り込んでいる姿は、どの選手も格好良い。
でも、僕の圭斗が一番だ。
え、今何て言った?
いや、恥ずかしい、恥ずかしい。
声に出したわけじゃないけど、そんなことをサラっと思っている自分が怖い……
だって、圭斗が『俺の秋吉』って使うから、つい出ちゃったじゃないか!
そして、また頭を振っているのに気づいた。
「はぁー。こんな寒空の下で何やってるんだよ……」
そういえば、あの人に相談していたことが解決したことを報告していなかった。
インスタを開くと、今朝の投稿に対してのコメントがなかった。
珍しいな……どうかしたのかな。
僕は気になりながらもDMを開いた。
――この間相談したことが解決しました。僕とある人は付き合っています。ある人からそう言われました。僕は素直に嬉しかったです。そういえば運動をされているんですか?この間の文章が陸上競技に使う言葉みたいでした。今ちょうど僕は陸上部の練習を見ています。今年最後の弁当の画像を載せました。来年もコメント楽しみにしていますね
自分で書いていて、何かが引っかかった。
そう、スタートダッシュとかウォームアップとか陸上競技っぽいよな……
「秋吉! 終わったよ。寒くないか?」
「あ、お疲れー。完全防備してきたから大丈夫」
「着替えてくるから。寒いから下駄箱のところで待ってろ」
「りょうーかいー」
🔸🔸🔸
「すごいよね、こんなに寒くてもあれだけの練習するんだね」
「まあな。でも夏よりかは楽かな。地獄だよ、真夏にスタートダッシュとか」
「え、ああ、そうだよな……。ねえ、ウォームアップってウォーミングアップのこと?」
「そう。ウチの陸上部ではウォームアップって使うかな。なんで?」
ずいぶん前に僕の頭の中で、なかなか組み立てられないバラバラなピースが浮かんだことがあった。
幾つかのピースは合致しそうなのに、それがどのピースなのかわからない。
でも、今それが……
「家まで送って行くよ」
「え? いいよ。この時間だと家の停留所から駅行きのバスの本数少ないから」
「でも、待っていてくれただろ。俺はもっとお前と一緒に居たい」
「……うん」
僕の家がある停留所で降りて、家までゆっくり歩く。
夜になると人通りがほとんどない住宅街は僕たちしか歩いていない。
自然と手を繋いで歩く。
圭斗の手が僕を強く引っ張ると、暗い脇道に入った。
「な、なに? どうかした」
圭斗は僕の頬を優しく包むと、唇を合わせた。
こんなところで、誰かに見られているかもしれないのに……
でも、僕の冷え切った身体にチョコレートのような甘くてトロリとした熱が染みわたっていく。
「ちょっと早い、クリスマスプレゼント」
圭斗が優しく微笑んだ。
僕は圭斗を抱きしめた。
「ありがと」
何事もなかったように脇道から出ると、僕の家の前で別れた。
また来た道を戻って行く圭斗を、後ろから抱きしめたい気持ちになる。
こんなにも圭斗のことが好きだ。
僕は姿が見えなくなるまで、その場を動けなかった。
🔸🔸🔸
――言葉にしないと伝わらないことはありますね。僕もちゃんと言葉にしようと思います。陸上競技をやっています。一年中、走っています。来年の弁当も楽しみです。
DMの返信。
やっぱり、陸上をやっている人なのか!
そのうち、弁当の投稿へのコメントも来るかな。
僕は明日の圭斗とのクリスマスパーティー用の料理の仕込みを始める。
さっきのキスが頭を過るけど、料理に集中しないと!
インスタの通知音が鳴った。きっとあの人からのコメントだ。
――今日もおいしくいただきました!
「……うん。今日もおいしくいただきました!」
了



