今日もおいしくいただきました!

 クリスマスを前に、料理部でやったシュトーレンを作ってみることにした。
 学校からまっすぐ帰って、お母さんと一緒にキッチンに立つ。

「いい感じに発酵したわよ」

 お母さんが、既に生地を発酵してくれていた。
 僕は部活でやった通りにナッツを細かく刻み、ドライフルーツと一緒に生地に混ぜ込ませる。
 ここからは力仕事だ。

「スイーツもやっぱり必要よね、お母さんもちゃんとやろうかしら」
「今更? ってこともないのか。でも、料理研究家の人って得意分野があるんでしょ」
「まあね。でも楽しいじゃない、やっぱりこういうのが作れるって」
「僕はなんでもやりたい派。出来た、良い感じじゃない?」
「おー、さすが。じゃ、オーブンに入れるわね」

 焼きあがるまで、まったりとお茶を飲む。

「で、二十四日はどうするの?」
「お母さんたちは、いないんでしょ? クリスマスコンサートだっけ?」
「そうそう、出版社に招待されたのよ。何着ていけばいいのかしらね、困っちゃうわ」
「いいね、お父さんとデートか」
「デートって。秋くんはデートする相手はいないの?」

 今までだったら、この手の話に対するスルー力は完璧だったのに、今の僕はちょっと引っかかってしまう。

「……ないよ。無い、無い」
「あんなにSNSで話題になったのにね」
「あれは、よくわかんないけど」
「まあ、いいわよ。付き合う相手をじっくり選ぶのも秋くんらしいし。毎日楽しく過ごせているならそれで十分」

 うん。すごく楽しいよ、お母さん。
 でも、僕は圭斗との関係が未だにハッキリしていないのが気になっていた。
 僕たちは付き合っているのかな?

「美味しそうに焼けたわよ! これを冷やして、二日後ぐらいに食べるのね」
「そう、上手く出来たね、さすが」
「橋上くんを呼んで食べたら?」
「……だね」

 圭斗は喜んで家に来るだろう。
 さて、何を作ろうかな。

――お久しぶりにDMします。ここのところ色々あって何から書けばいいかわかりません。僕は一人でクリスマスを過ごすと思っていましたが好きな人と一緒に過ごせそうです。でも気になっていることがあります。僕とある人は付き合っているのか、恋人って呼んでいいのかわかりません。どこでわかるものですか?恋愛初心者の僕に教えてください。クリスマスはどう過ごしますか?

「ちょっと恥ずかしい質問しちゃったかな。まあ、いいか」

 僕は明日の弁当の仕込みを始める。
 年内では後、二回だ。
 今年もよく頑張りましたと自分を褒めてあげたい気になる。
 牛肉のうす切りがあった。
 すき焼き風に炒めようかな……
 インスタの通知音がした。

――不安に思っているんですね。気持ちを伝えあった後のウォームアップの時間かもしれません。いきなりスタートダッシュすると怪我することもあるので段階を踏んでいるのでは。ちゃんと伝えてあげるべきですね。僕もクリスマスは好きな人と過ごします。その人も料理が上手なんです

 運動をする前の準備が出来てないってこと?
 僕は準備万端なんだけどな。
 でも、面白い比喩表現をする人だ。
 クリスマスはやっぱり好きな人と過ごすのか、やっぱり僕たち共通項がいっぱいある。
 DMのやり取りはずっと続けていきたいなと思った。

🔸🔸🔸

 牛肉のすき焼き風炒めと、かぼちゃの煮物に、にんじんとレーズンのサラダ。
 ご飯は白米には紫もち麦を混ぜて完成。
 今日も圭斗の分は別にした。

――今年の弁当も後二回。今日もおいしくいただきます!

「すき焼きかよ! 豪華だなー」
「すき焼き風ね。そんなに高価な牛肉じゃないよ。はい、圭斗の分」
「さんきゅっ! 今日部活ないだろ?」
「うん。ないけど」
「デートしようぜ!」
「で、デート?」
 
 僕は箸を持ったまま固まった。
 デートは一緒に帰ることとは違うのか?
 わかりやすぐらい、心臓がドキドキしてきた。
 
「お前、ドキドキしてるだろ」
「……」
「わかりやすいなー。まあ、もっとドキドキさせてやるから。期待してまってろ」

 圭斗は、目を細めながら牛肉を口いっぱいに頬張った。

🔸🔸🔸

「デートって何するんだよ」
「まあ、定番の感じかな」
「定番って?」
「いいから、俺についてこい」

 放課後、商業施設が多い駅で降りる。
 僕は並んで歩く圭斗の手が、常に僕の手に触れていることに気づいた。
 え、待って! わざとしてる?
 手を繋ぐつもりじゃないよな!
 確かに、この間学校の階段では繋いだけど……
 そう思い始めると、全神経が自分の手に集中してしまう。

「なに、意識してんだよ」

 バレてた!
 僕はカバンを持つ手をわざと変えた。
 ちょっとバカにされたのが悔しくて。

「やることがガキ過ぎるな」

 圭斗は僕の耳元に口を近づけると、そう囁いた。
 僕は圭斗の息が耳にかかると、ゾクゾクして思わず首をすくめた。
 そんな僕を見て、圭斗は笑っている。
 僕は圭斗のやること全てに、こんなに素直に反応していることが悔しかった。

「ゲーセン?」
「そう。ド定番だろ? まずはプリクラ撮ろうぜー」
「女子高生かよ」
「付き合いたてのカップルが、まずすることだろ」

 え……?
 圭斗は僕の腕を取って、プリクラ機の中に入り、操作を始める。
 僕は中学生の時に、同じ班になった男女何名かで一緒に撮った以来だ。
 っていうか、さっき何て言った?

「秋吉、撮るぞ」

 僕は圭斗に言われるがまま、ポーズをしていたけど、途中から楽しくなっていた。

「いいじゃん! この間バズった写真よりも何十倍もいい。隣に俺がいるだけでこんなにも違うんだなー。相当可愛いな」
「自画自賛かよ……っていうか可愛いって言うな」
「なんで、嫌か? じゃあ、カッコいい」
「もう、いいよ!」
「ほい、半分ずつ」

 受け取った写真に写っている圭斗は……やっぱり格好良い。
 僕の頬は自然とゆるんでしまう。
 その顔を圭斗に下から覗かれた。

「なんだよ、嬉しそうじゃん。素直じゃないなー秋吉は」
「……格好良いよ、圭斗」

 圭斗が満面の笑みを浮かべて、僕の肩に勢いよく腕を回した。

「素直でよろしい。さ、次はあれするぞ」
「うん」

 リズムゲームで盛り上がり、カートに乗って競い合い、バスケゴールの点数で争った。
 笑って、叫んで、汗を流して、遊ぶだけでこんなに体力消耗したのは久々だった。
 本気で対戦しながらも、僕は横で圭斗の体温を感じると、集中力が切れそうで困った。

「疲れた。秋吉って負けず嫌いだよなー。まさか、バスケで負けるとは思わなかったわ。あー悔しい」
「へへん。中学の時はバスケ部だったって言わなかったっけ? 運動神経がいい圭斗でも苦手なものってあるんだな」
「そうだった! 選択間違った―。あーでも楽しかったな」
「うん。サイコー」

 ゲームセンターを出ると、既に18時を過ぎていた。

「腹減ったな……どうする?」
「そうだな……なんか食べてから帰ろう」

 僕と圭斗は並んで、駅の方へ向かう。
 来た時のように、圭斗の手が触れるけど、僕はそのままにした。
 ずっと触れていたい。
 同じタイミングで顔を見合わせる。
 圭斗が黙ったまま、こくんと頷いた。