ハンバーグの種に今日はチーズを仕込む。
冷めたらチーズが固まるかも……と心配したけど、お母さんに冷めても美味しい作り方を聞いた。
絶対、圭斗が喜ぶやつ。
僕は金曜日のことを思い返しては、地に足がついていないようなフワフワした気持ちになっていた。
あの瞬間までは、僕は圭斗に対する気持ちを封印して、ずっと親友でいると自分に誓っていた。
はずなのに、気が付くと制御出来ずに叫んでいた。
もし、あの時圭斗に拒否されていたら、どうなっていたんだろう……
考えるだけで怖い。
でも、田端先輩は一旦自分の気持ちを受け入れてもらったのに、結局成就出来ずに終わった。
僕は今日の部活が憂鬱で仕方ない。
圭斗に言われたように堂々としているつもりだ。
ただ、僕たちのことを話す勇気はなかった。
フライパンの蓋を開けると、ハンバーグの中のチーズが漏れることなく良い感じに焼けている。
香りだけでご飯が何杯も進みそうだ。
今日は、圭斗の分のハンバーグは別のタッパーに詰めた。
――今日もおいしくいただきます!
🔸🔸🔸
「で、クリスマスはどうする?」
「え、もうその話?」
「もうって、今週の金曜日だぞ? 何呑気なこと言っているんだよ」
「あ、そうか」
早速、昼休みに圭斗はクリスマスの話を持ち出した。
僕は今年のクリスマスは、ぼっちのつもりで居たから、正直何にも考えていなかった。
「はい、これは圭斗の分」
「え! 俺専用なの?」
「うん。ちょっと一個が大きくなっちゃったから別に詰めてきた。チーズインハンバーグだよ、どう凄いだろ」
「スゲーー! っていうか匂いが溜まらん。いただきます!」
圭斗はハンバーグに齧りついた。
僕はその反応をじっと見守る。
「ん? うめーー。何このチーズの味。すっごく濃厚。え、マジで美味すぎる」
「ホント?」
僕も自分の分のハンバーグを口に入れる。
中に入れたチーズが伸びるわけではないけど、コクがあって旨味が肉汁と共に口に広がる。
「美味しい。自分で作ってあれだけど、自慢していいかも」
「おおー、おお。自慢しろっていうか俺が宣伝してやる。やっぱり、俺の秋吉は最高だな。天才、天才」
僕は圭斗の言葉で、喉につまりそうになる。
「ちょ、声が大きいよ……」
「なんで、今さら照れるな。ホントのこと言って何が悪いんだよ」
「だってさ……」
いつでも、どんな時でも正直な圭斗が好きだけど、流石に空気は読んで欲しい。
それでも、ニコニコと美味しそうに食べる圭斗の顔を見ると、これ以上何も言えなくなる。
恋愛って難しいな……
「今日、部活か?」
「うん。圭斗は?」
「グラウンド次第だな……走れなければ体育館で筋トレ地獄かも」
「そっか……」
「終わるの待っているよ。一緒に帰ろうぜ」
「うん。僕の方が早く終わったら、体育館に行くよ」
「りょうーかい」
🔸🔸🔸
放課後、調理教室には三年生以外のメンバーが揃っていた。
「今日も、先輩たちは来ないの?」
僕は牧田さんに聞いてみる。
「田端先輩は来ると思うけど、他の人はもう引退かもね。受験組も多いし」
「そっか……。来年の部長は牧田さんがやるんだろ?」
「え? うーんどうかな……務まると思う?」
「思う、思う。その明るさが絶対必要だよ」
「ホントかな~」
彼女の明るさと口の上手さは、部長として向いている。
来年も楽しく続けたい僕としては、居て欲しい人材だ。
「おつかれー。皆、そろってますか? 今年も今日入れて、後二回だけど楽しく作っていきましょー。じゃ、スイーツ組と料理組に分かれて始めましょうか」
田端先輩はいつもと変わらないように見えた。
僕は何も聞いてない人として接するつもりだった。
「堤くん、悪いんだけど料理組に移動してもらえる? 思いのほか、三年が居なくなっちゃって、料理組足りなくなりそうなの」
「は、はい。いいですよ」
「ありがとう。あ、ちょっと終わってから話しできるかな?」
「え!」
「しーっ、声が大きい。ちょっと内緒の話だから」
「は、はい。わかりました……」
田端先輩に、呼び出しを喰らった!
僕は動揺して、視線が定まらない。
先輩が僕に内緒で話したいことは、ただひとつ。
僕は、それをまったく知らない体で、ありのままに受け止められる演技力がないことは既にわかっていた。
「やっぱり、堤先輩の手つきがプロっぽいですね」
「そうかな?」
「粉のはたきかたとか」
「粉なんてみんなつけ方同じだろ?」
「毎日、お弁当作っているって聞きました。そういうことも関係してそうですね」
「早起きがまず、無理だわー。ホント堤くん、尊敬する」
みんな、好き勝手な話をしながら段々、料理として完成していく過程が楽しい。
今年のフライドチキンのバッター液は去年とは違って、コンソメパウダーを入れた。
より、あるお店の味に近づくらしい。
これ、絶対圭斗が好きな味だ!
クリスマスにはどれぐらい用意しようかな……
カリッと揚がった、フライドチキンをみんなで食す。
シュトーレンは粉砂糖を振りかけて、クッキングシートに包み冷蔵庫に保管して次の部活に食べることになった。
片付けが終わり、各々帰って行く中、僕は先輩と二人教室に残った。
「美味しかったね、フライドチキン。今回、レシピ変えて良かったかも」
「かなりあのお店の味に似ていましたね、これは自分でも作りたくなりました」
「……うん、そうだね。橋上くんも好きそう」
先輩の口から圭斗の名前が出て、僕は必要以上にリアクションしないように身構える。
「え……ああ、そうですね。男はみんな好きかも」
「もう聞いている?」
「何をですか?」
田端先輩は探るような視線を僕に向けるが、僕は心の中を無の状態にして耐える。
「……私たち別れたの」
「え! そ、そうなんですか……」
「うん。せっかく仲をとりもってくれたのに、こんな結果になっちゃって残念」
先輩の言葉が、無にしたはずの僕の心に容赦なく浸食してくる。
「僕は何もしていないので……」
「でもね、酷いんだよ。他に好きな人がいたんだって。でもその人に振り向いてもらえないからって私と付き合ったって。サイテーだよね。あまりに頭きたから、一発引っぱたいてやった」
「え! 叩いたんですか!」
「うん。叩いていいって言ったから。パチーんって。なんだかそれでスッキリしちゃって。こんな大したことない男よりも、もっとイイ男はいるはずって思ったら、無駄なことに時間を使っている場合じゃないって悟ったわ」
「は、はぁ。さすが、田端先輩。格好よいです」
僕は思わず、親指でグッドポーズを先輩に向けていた。
なんだか、格好良くて。
どこまで本音だかはわからないけど、前向きで、ポジティブで、終わったことをウジウジと振り返らない潔さは、僕が見てきた田端先輩そのものだった。
「ありがと。大学行ったら、絶対イイ男見つけるんだ―」
「絶対、先輩なら圭斗よりも格好良い人が居ると思います!」
「うん。私もそう思う。ってことで話は終わり。帰ろうか」
「はい……」
調理教室のドアを開けると、圭斗が立っていた。
「あ……」
動揺する僕を横目に、先輩は圭斗の肩をグーで叩くと、軽く笑みを浮かべて階段を降りて行った。
僕と圭斗だけが廊下に残された。
「……いつからいたんだ?」
「十分前ぐらいかな」
「話、聞こえてた?」
「うん。バチーんってな」
「叩かれたんだな。知らなかったよ」
「言わなかったもん」
僕は何故か笑いが込み上げてきた。
「なんで、笑うんだよ。俺が叩かれたのが面白いか?」
「いや、やっぱり先輩は格好良いなーって思ってさ」
「まあな……俺なんか釣り合うわけないよ」
「うん、そう思う」
「って、言いながら笑うなよ」
「だって、なんか可笑しくて」
「はいはい。せいぜい笑いものにすればいいさ。どんだけ痛かったか知らないくせに」
「じゃあ、僕が慰めてやる」
「……おお」
どちらともなく、手を繋いで階段を降りていた。
部活が終わった校舎の中では、人に会う確率は少ないはずだけど、ドキドキしながらも手を離したくはなかった。
冷めたらチーズが固まるかも……と心配したけど、お母さんに冷めても美味しい作り方を聞いた。
絶対、圭斗が喜ぶやつ。
僕は金曜日のことを思い返しては、地に足がついていないようなフワフワした気持ちになっていた。
あの瞬間までは、僕は圭斗に対する気持ちを封印して、ずっと親友でいると自分に誓っていた。
はずなのに、気が付くと制御出来ずに叫んでいた。
もし、あの時圭斗に拒否されていたら、どうなっていたんだろう……
考えるだけで怖い。
でも、田端先輩は一旦自分の気持ちを受け入れてもらったのに、結局成就出来ずに終わった。
僕は今日の部活が憂鬱で仕方ない。
圭斗に言われたように堂々としているつもりだ。
ただ、僕たちのことを話す勇気はなかった。
フライパンの蓋を開けると、ハンバーグの中のチーズが漏れることなく良い感じに焼けている。
香りだけでご飯が何杯も進みそうだ。
今日は、圭斗の分のハンバーグは別のタッパーに詰めた。
――今日もおいしくいただきます!
🔸🔸🔸
「で、クリスマスはどうする?」
「え、もうその話?」
「もうって、今週の金曜日だぞ? 何呑気なこと言っているんだよ」
「あ、そうか」
早速、昼休みに圭斗はクリスマスの話を持ち出した。
僕は今年のクリスマスは、ぼっちのつもりで居たから、正直何にも考えていなかった。
「はい、これは圭斗の分」
「え! 俺専用なの?」
「うん。ちょっと一個が大きくなっちゃったから別に詰めてきた。チーズインハンバーグだよ、どう凄いだろ」
「スゲーー! っていうか匂いが溜まらん。いただきます!」
圭斗はハンバーグに齧りついた。
僕はその反応をじっと見守る。
「ん? うめーー。何このチーズの味。すっごく濃厚。え、マジで美味すぎる」
「ホント?」
僕も自分の分のハンバーグを口に入れる。
中に入れたチーズが伸びるわけではないけど、コクがあって旨味が肉汁と共に口に広がる。
「美味しい。自分で作ってあれだけど、自慢していいかも」
「おおー、おお。自慢しろっていうか俺が宣伝してやる。やっぱり、俺の秋吉は最高だな。天才、天才」
僕は圭斗の言葉で、喉につまりそうになる。
「ちょ、声が大きいよ……」
「なんで、今さら照れるな。ホントのこと言って何が悪いんだよ」
「だってさ……」
いつでも、どんな時でも正直な圭斗が好きだけど、流石に空気は読んで欲しい。
それでも、ニコニコと美味しそうに食べる圭斗の顔を見ると、これ以上何も言えなくなる。
恋愛って難しいな……
「今日、部活か?」
「うん。圭斗は?」
「グラウンド次第だな……走れなければ体育館で筋トレ地獄かも」
「そっか……」
「終わるの待っているよ。一緒に帰ろうぜ」
「うん。僕の方が早く終わったら、体育館に行くよ」
「りょうーかい」
🔸🔸🔸
放課後、調理教室には三年生以外のメンバーが揃っていた。
「今日も、先輩たちは来ないの?」
僕は牧田さんに聞いてみる。
「田端先輩は来ると思うけど、他の人はもう引退かもね。受験組も多いし」
「そっか……。来年の部長は牧田さんがやるんだろ?」
「え? うーんどうかな……務まると思う?」
「思う、思う。その明るさが絶対必要だよ」
「ホントかな~」
彼女の明るさと口の上手さは、部長として向いている。
来年も楽しく続けたい僕としては、居て欲しい人材だ。
「おつかれー。皆、そろってますか? 今年も今日入れて、後二回だけど楽しく作っていきましょー。じゃ、スイーツ組と料理組に分かれて始めましょうか」
田端先輩はいつもと変わらないように見えた。
僕は何も聞いてない人として接するつもりだった。
「堤くん、悪いんだけど料理組に移動してもらえる? 思いのほか、三年が居なくなっちゃって、料理組足りなくなりそうなの」
「は、はい。いいですよ」
「ありがとう。あ、ちょっと終わってから話しできるかな?」
「え!」
「しーっ、声が大きい。ちょっと内緒の話だから」
「は、はい。わかりました……」
田端先輩に、呼び出しを喰らった!
僕は動揺して、視線が定まらない。
先輩が僕に内緒で話したいことは、ただひとつ。
僕は、それをまったく知らない体で、ありのままに受け止められる演技力がないことは既にわかっていた。
「やっぱり、堤先輩の手つきがプロっぽいですね」
「そうかな?」
「粉のはたきかたとか」
「粉なんてみんなつけ方同じだろ?」
「毎日、お弁当作っているって聞きました。そういうことも関係してそうですね」
「早起きがまず、無理だわー。ホント堤くん、尊敬する」
みんな、好き勝手な話をしながら段々、料理として完成していく過程が楽しい。
今年のフライドチキンのバッター液は去年とは違って、コンソメパウダーを入れた。
より、あるお店の味に近づくらしい。
これ、絶対圭斗が好きな味だ!
クリスマスにはどれぐらい用意しようかな……
カリッと揚がった、フライドチキンをみんなで食す。
シュトーレンは粉砂糖を振りかけて、クッキングシートに包み冷蔵庫に保管して次の部活に食べることになった。
片付けが終わり、各々帰って行く中、僕は先輩と二人教室に残った。
「美味しかったね、フライドチキン。今回、レシピ変えて良かったかも」
「かなりあのお店の味に似ていましたね、これは自分でも作りたくなりました」
「……うん、そうだね。橋上くんも好きそう」
先輩の口から圭斗の名前が出て、僕は必要以上にリアクションしないように身構える。
「え……ああ、そうですね。男はみんな好きかも」
「もう聞いている?」
「何をですか?」
田端先輩は探るような視線を僕に向けるが、僕は心の中を無の状態にして耐える。
「……私たち別れたの」
「え! そ、そうなんですか……」
「うん。せっかく仲をとりもってくれたのに、こんな結果になっちゃって残念」
先輩の言葉が、無にしたはずの僕の心に容赦なく浸食してくる。
「僕は何もしていないので……」
「でもね、酷いんだよ。他に好きな人がいたんだって。でもその人に振り向いてもらえないからって私と付き合ったって。サイテーだよね。あまりに頭きたから、一発引っぱたいてやった」
「え! 叩いたんですか!」
「うん。叩いていいって言ったから。パチーんって。なんだかそれでスッキリしちゃって。こんな大したことない男よりも、もっとイイ男はいるはずって思ったら、無駄なことに時間を使っている場合じゃないって悟ったわ」
「は、はぁ。さすが、田端先輩。格好よいです」
僕は思わず、親指でグッドポーズを先輩に向けていた。
なんだか、格好良くて。
どこまで本音だかはわからないけど、前向きで、ポジティブで、終わったことをウジウジと振り返らない潔さは、僕が見てきた田端先輩そのものだった。
「ありがと。大学行ったら、絶対イイ男見つけるんだ―」
「絶対、先輩なら圭斗よりも格好良い人が居ると思います!」
「うん。私もそう思う。ってことで話は終わり。帰ろうか」
「はい……」
調理教室のドアを開けると、圭斗が立っていた。
「あ……」
動揺する僕を横目に、先輩は圭斗の肩をグーで叩くと、軽く笑みを浮かべて階段を降りて行った。
僕と圭斗だけが廊下に残された。
「……いつからいたんだ?」
「十分前ぐらいかな」
「話、聞こえてた?」
「うん。バチーんってな」
「叩かれたんだな。知らなかったよ」
「言わなかったもん」
僕は何故か笑いが込み上げてきた。
「なんで、笑うんだよ。俺が叩かれたのが面白いか?」
「いや、やっぱり先輩は格好良いなーって思ってさ」
「まあな……俺なんか釣り合うわけないよ」
「うん、そう思う」
「って、言いながら笑うなよ」
「だって、なんか可笑しくて」
「はいはい。せいぜい笑いものにすればいいさ。どんだけ痛かったか知らないくせに」
「じゃあ、僕が慰めてやる」
「……おお」
どちらともなく、手を繋いで階段を降りていた。
部活が終わった校舎の中では、人に会う確率は少ないはずだけど、ドキドキしながらも手を離したくはなかった。



