今日もおいしくいただきました!

「止みそうにないな」
「どうしよう……」

 雪はますます粒が大きくなり、止む気配はない。
 僕は圭斗と部屋の窓から外を見ていた。

「泊まって行けよ。明日は土曜だし」
「うん……でも明日は明日で積もったら歩くの大変そうだし」

 僕は正直、圭斗と二人きりで部屋に居るのが恥ずかしくなっていた。
 
「なんだよ、一緒にいるの嫌か?」

 見抜かれている!

「い、嫌じゃないけどさ……」
「恥ずかしい?」
「は、恥ずかしくはないけどさ……」

 圭斗はいきなり僕を抱きしめた。
 
「大好きだよ、秋吉」

 僕はその言葉が嬉しくて、圭斗の身体に手を回した。
 もう、恐れることはない。

「僕も……ずっと好き」

 圭斗は僕の身体に腕を回したまま、僕の顔を見る。

「ずっと好きって、なんか可愛いな」
「え、そうかな。だって、さっき圭斗も言ったよ。ずっとお前のことしか好きになれないって。うわ、なんか自分で言うの恥ずかしい」
「わかりやすいほど、顔が赤くなってるぞ、秋吉」
「もう、いいよ」

 僕は離れようとするが、圭斗の回した腕が段々強くなって放してくれない。

「圭斗―。ご飯出来たから持っていきなさいー」
「ちぇっ、タイミング良すぎるよな、母ちゃんは」

 圭斗は僕を放すと「待っていて」と言って部屋を出て行った。
 僕は少し、息を整える。
 圭斗に抱きしめられるのは嬉しいけど、でもまだ身体に余計な力が入ってしまう。
 スマホを手に持つと、インスタを開く。

――今日僕はやっと自分の気持ちを口にしました。ある人も同じ気持ちでした。僕はすごく幸せです。今まで、僕のとりとめのない話を聞いてくれてありがとうございます。まだまだ悩みはつきないので引き続きよろしくお願いします

「なんだか、選挙応援みたいな文章になっちゃった」

 僕は送信ボタンを押した。
 圭斗のおばさんが用意してくれた夕飯は何だろうとワクワクした気持ちで待っていると、圭斗のスマホの着信音が鳴った。

「お待たせー。秋吉、机の上の物、下に置いて」
「おお、わかった」

 圭斗がトレーに載せて運んできた、数々のおかずや、ご飯を机に並べる。
 圭斗のスマホを床に置こうと動かすと、インスタのプッシュ通知が見えた。
 え、もしかして圭斗はまたインスタを再開したのかな?
 ちょっと、僕は嬉しい気持ちになった。

「美味しそうー。すごい量だね!」
「まあ、秋吉がいるから、母ちゃんも頑張ったみたいだな」
「その言い方! おばさんの料理美味しくて好きだよ」
「いただきます!」

🔸🔸🔸

『くれぐれも橋上くんのお母さんによろしくお伝えしてね』
「わかった。じゃあね」
「大丈夫そ?」
「うん。お母さんがよろしくって。おばさんにお礼を言わなくちゃ」
「いいよ、いいよ。明日で」

 夕飯を食べ終わって、僕と圭斗はベッドの上に座ってまったりとしていた。
 ずっと圭斗は僕の肩を抱いている。

「どうして、田端先輩と付きあったのか聞いてもいいか?」
「え、そこ掘り下げるか」
「だって、一応僕はキューピッドだったわけだし……」
「それだよ。お前が先輩と付き合った方がいいって言ったからだよ」
「なんだよ、それ!」
「……お前は俺のことを親友以上には見てないんだなっていうのがショックだった。だから楽になりたくて」
「先輩をだしに使ったってこと……」
「サイテーだよな、俺って」
「うん。何回も言うけどサイテーだ」
 
 圭斗は僕の肩に回した腕に力を入れて、僕の顔を自分の顔に近づける。

「近いよ、圭斗! ゴメン、ゴメン。サイテーじゃないよ」
「まだ言うか! お前の可愛い顔に嚙みついてやる」
「やめろよ……」

 僕たちはふざけたまま、ベッドに倒れ込んだ。
 向かい合ったまま、圭斗の手が僕の頬を優しく撫でる。

「俺は段階を踏んで、お前に近づいていった。でも、全然気が付いてなかっただろ」

 保健室でおでこをくっつけたこと、スポーツセンターで抱きしめられたこと、マフラーを巻かれて額にキスをされたこと、僕の部屋でマスク越しにキスをされたこと……
 全てが走馬灯のように頭を巡った。

「からかって、楽しんでいるのかと思っていた」
「ぷはっ」
「笑うなよ!」
「そういう天然なところが、秋吉の良さだよ。だから好きになった」

 圭斗の顔が僕に近づくと、唇が触れた。
 マスク越しじゃない、初めてのキス。
 重ねた唇は、お互いに少し震えていた。

🔸🔸🔸

「寒くないか?」
「うん。大丈夫だよ」

 僕は床に布団をひいてもらって寝ることにした。
 圭斗に自分は床に寝るから、ベッドを使えと何回も言われたけど、断った。
 あくまでも僕は泊めてもらっている身だから、ベッドじゃなくても大丈夫。
 スマホのインスタを開くと、DMが届いていた。
 僕がお風呂に入っている間に届いたみたいだ。

――幸せそうで僕も嬉しいです。僕もある人に拒否られることなく受け入れてもらえました。お互いに思いが通じ合えて良かったです。これからも僕であれば何でも話してください

 あの人は、嘘を吐いたことを後悔していたけど、気持ちが通じたんだ。
 僕は自分のことのように嬉しくなった。
 彼と僕は運命共同体みたいなものだ!
 ってちょっとオーバーかな。

「何、ニヤニヤしてるんだよ」
「え? いや別に……」
「なんか、ヤラしいものでも見ていたんだろ!」
「なわけないだろ。そういえば、またインスタ更新するのか?」
「え? い、インスタ?」
「うん。さっきインスタのプッシュ通知が見えたけど。走れるようになったら、また更新して欲しいな」
「……なんで、そんなに興味あるのか?」
「あるよ! 僕が一番のフォロワーだったのを忘れたのかよ!」
「お、おお。そうだったな……うん、更新していくから楽しみにしておけ!」

 また圭斗の弾けた笑顔が見られるかな。
 僕の楽しみがひとつ増えた。

🔸🔸🔸

「お世話になりました。ありがとうございました」
「滑らないように、気を付けて帰ってね。お母さんにもよろしく伝えて」
「はい」

 外に出るとかなりの雪が積もっていた。
 道路は雪が溶けてびしゃびしゃになっているところと、まだ誰も足を踏み入れてない雪が積もったままのところと分かれていた。
 雪道に不慣れな僕たちは、滑らないように恐る恐る歩いて行く。

「十二月に雪って、ロマンチックだけど実際は酷い有り様だな」
「秋吉、滑るから俺に捕まって歩け。見ているだけで危なっかしいぞ」

 僕は圭斗の腕に捕まりながら歩く。
 ものすごく腰が引けている無様な格好に見えるだろう。

「明日の自主練は中止だなー」
「自主練なんてするの?」
「うん。先輩が一緒にやろうって誘ってくれたけど、この雪じゃ無理だな」
「グラウンド、当分使えないんじゃない?」
「そのうち冬休みに入るしなー。来週はクリスマスか」
「クリスマス!」
「なんだよ、そんな大声で。え、予定あるのか? 俺と過ごすんじゃないの?」
「へ? でも圭斗は……」
「言っただろ、別れたの」
「確かに……先輩と部活で顔を合わせるのがちょっと憂鬱になってきた」
「絶対、お前のせいじゃないから、堂々としてろよ。お前が責められる理由はないからな」
「う、うん」

 わかってはいるけど、でも僕は必要以上におどおどしてしまうだろう。
 でも……僕と圭斗は付き合っているわけじゃない。
 ただ、お互いに好きだと確認しただけだ……よね。
 僕は必死で歩く圭斗の顔を見上げる。
 ずっと、この腕に捕まっていてもいいのかな。

「バスは遅れているみたいだけど、動いているな。良かった」
「ありがとう、またあの道を帰らなくちゃいけないね。ゴメン」
「なんで謝るんだよ。お前を無事に送り届けるのが俺の使命だから。それに俺の腕に必死にしがみついている秋吉が可愛くて、いいもの見せてもらった」
「か、可愛いとか言うな!」

 僕がムキになって反論すると、圭斗は僕の頭をわしゃわしゃして誤魔化す。

「月曜の弁当のおかずは何がいい?」
「リクエストに応えてくれるのか! うーん、そうだな……ハ……」
「ハンバーグだろ」
「わかっているなら聞くなよ」
「了解。飛び切り美味しいのを作ってやる」
「おお、期待してっから」

 僕はバスに乗りこむと、窓から圭斗に手を振った。
 バスが出発するまで、圭斗は動かずにそこに留まっていた。
 愛おしい……僕の中から初めて出た感情に自分でも驚いていた。