今日もおいしくいただきました!

 今日の弁当に詰めるご飯はゆかりを混ぜた。
 この間、初めて食べたけどすっぱいような独特の味がして美味しかった。
 紫色になっているのもインパクトがあって良い感じ。
 ハンバーグはサルサソースを足したアレンジソースで煮詰める。
 自分で言うのもなんだけど、お店のハンバーグみたいだ!
 彩りに緑系の野菜を詰めて、完成。
 写真を撮って、アップする。
 そういえば、昨日珍しくDMの返信がなかった。
 やっぱりあんなに内容の薄いメッセージに返信するようなことないよな……と反省した。
 
――今日もおいしくいただきます!

🔸🔸🔸

「おはよう。昨日は急に悪かったな」

 いつもと変わらない圭斗が居た。

「全然。良かったよ。良いもの見せてもらった」

 僕は心底そう思っていた。
 圭斗は口元をほころばせて「うん」と頷いた。
 
「今日は……部活か?」
「そう。圭斗は? 陸上部はいつから復帰するんだ?」
「水曜からの予定」
「そっか」

 僕は小さくガッツポーズをしてみせた。
 圭斗がそこに自分の手を当て、グータッチをした。

🔸🔸🔸

「美味そうーー」
「美味そうだろ。今日はちょっとソースを変えたハンバーグにしたんだー」
「……俺がハンバーグを好きなのを知ってこの仕打ちかよ」
「だって、圭斗は先輩からの差し入れ……が。あれ? 無いのか」
「ねーよ。もう永遠にねーかもなー」
「なんで!」
 
 僕は昨日の言い合いのシーンが浮かんだ。
 え、本当にそういう感じなのか?
 唾をごくっと飲み込んだ。
 なんか、余計なことを口にしてしまいそうだったから。

「まあ、いろいろ面倒くせーなーって感じ」
「……け、喧嘩でもしたのか? だから昨日僕が言ったときにヘンな感じになったのか?」
「ん? あんま関係ないかな。ただ、俺はお前と一緒に居る時は他の人の話をしたくない。それだけだよ」

 圭斗は大きなから揚げを一口で口に入れた。
 僕は箸を持ったまま、圭斗の顔から視線を外せなかった。

「なんだよ、そんなに見るなよ」

 僕はハンバーグを半分に切って、圭斗の弁当箱に入れた。

「さんきゅ!」

 明日から、また余分に作らなきゃな……
 僕はフワフワした気持ちのまま、ハンバーグを噛み締めた。

🔸🔸🔸

 放課後、調理教室に向かう僕の足は重かった。
 田端先輩と顔を合わせるのを避けたい気持ちが大きくなっていた。
 まだ、昨日の言い合いだけだったら良かったけど、昼に圭斗からあんな話を聞いてしまったら、まともに先輩の顔が見られそうにない。
 かといって、僕が少しでもいつもと違う態度を取ったら、先輩もおかしいと思うだろう。
 僕は女優じゃない!
 そんなに上手に演じる自信はなかった。

「来た! すごいね、堤くん」
「え? な、なにが?」
「見てないの? SNSで話題になっているよ」
「何が?」
「堤くんが!」
「はぁ?」

 牧田さんや他の女の子達に囲まれて、スマホの画面を見せられた。
 そこには、この間の料理教室で撮られた写真が表示されていた。

「え、これって……」
「見てよ、万バズしてるの! 凄くない? このイケメンは誰ですかってコメントばっかり。遠音高校(とおおんこうこう)の堤秋吉くんですって書こうかと思ったわよ」
「やめろよ! っていうか、どういうこと」
「こっちが聞きたいわ。これはXだけど、TikTokでも拡散されてるー」
「堤先輩すごいですね。一年の間でも謎のイケメンって呼ばれてたんですよ」
「謎のイケメン、ウケる。確かに、全然目立たないけど、美少年だもんね」

 みんなが寄ってたかって、僕をイジる。
 僕はこの状況に対応できなくて、十二月だというのに汗が噴き出す。

「なに、集まっているのー。始めるよー」

 いつの間にか、田端先輩が来ていた。

「先輩、見ました? 堤くんがトレンドなんですよ」
「えー、そうなの? どこどこ」

 先輩まで乗っかるのか……

「スゴイじゃない! え、これってウチの高校で初めてじゃない? ちょっと料理部としてもこれは自慢すべき案件かもー」

 先輩がノリノリなのがかえって気になる。
 確かにノリが良い人ではあるけど……
 すごくモヤモヤした気持ちになった。

「もう、僕のことはいいですから。始めてください」
「はいはい」

 僕は頭にバンダナを巻き、エプロンを着けて、手を洗う。
 調子狂うな……
 っていうか、大ごとにならないといいなと密かに願った。

「三年は私だけか。いつもよりも人数少ないけど、来週の本番を前にシュトーレン作ってみようと思っています。生地は一時間前に作って発酵させておいたので。とりあえず、5人ずつに分かれてくださいー」

 数少ない男性部員は自ずと二手に分かれる。
 今日の同じグループには牧田さんと、一年生二人と……田端先輩だ。

「先輩、いつ生地作ったんですかー? すごい早業」
「もう、三年は自習時間多いから。だって発酵まで一時間ぐらいかかるからさ。流石に今からやるのは無理あるっしょ」
「流石です」

 牧田さんと先輩の会話を聞きながら、僕はアーモンドなどのナッツ類を包丁で細かく刻み、ドライフルーツを混ぜる。
 本当はラム酒を使うらしいけど、高校生の僕たちは禁止だ。
 他のメンバーは発酵した記事を捏ねている。
 ドライフルーツとナッツを生地に混ぜたら、二等分にして長方形に伸ばす。
 これは力仕事だから僕が受け持つ。

「で、橋上くんは何て言っていた?」
「え!」
「いやいや、そんな驚かなくても。堤くんがXで話題になっていること」
「え、いや知らないと思います……」
「そうなの? お互いに知らない事なんて無いと思っていたけど。そうなんだ」
「あ、はい……僕もここに来て知ったぐらいなので」
「ふーん。ショック受けるかな? 喜ぶかな? 後で聞いてみよーっと」
「わー、先輩。この後デートですか? まさか部活終わるの待っていたりします?」
「ええー、いや流石に遅いし。それに彼、部活やってないし、帰宅部だから無いよ」

 圭斗は部活に復活しますよ……先輩には伝えてないのかな?
 僕は生地を伸ばす手に力が入る。

『お互いに知らない事なんて無いと思っていた』

 先輩は何も知らずに言っているのに、僕は勝手に傷ついていた。
どうして、競う必要なんてないのに。

「堤くん、もういいよ。イイ感じに柔らかくなった」
「ああ、はい」

 棒状になった生地をオーブンに入れる。
 焼けるまでの三十分、僕は洗い物をする。
 なんだか、これ以上先輩と牧田さんの話を聞きたくなかった。

「……堤先輩」
「うん?」
「……後で、私も写真撮っていいですか?」
「え? いや、それは……」
「す、すみません」

 一緒に洗い物をしていた一年生のお願いを断ってしまった。
 だって、僕はただの高校生だから。