「みなさん、おはようございます。今日もよろしくお願いします。えー、本日はいつものスタッフがお休みのため、臨時アシスタントに来てもらいました。紹介させてください。息子の秋吉です」
「は、はじめまして。よろしくお願いします」
まさか挨拶するなんて聞いてない!
土曜日、お母さんの料理教室は人で溢れていた。
三十人もいるらしい。
僕はわかりやすいほどきょどって三十人の前で挨拶をした。
「イケメン!」
「わーうらやましいほど良いお子さんですね」
「先生、ご自慢の息子さんとやっとお目にかかれて嬉しいですわ」
拍手とともに、あっちこっちで声があがった。
僕はどう応えていいかわからず、ますます、きょどってしまう。
「みなさんのお手を煩わせないようにしますので、今日一日よろしくお願いしますね。では、始めましょうか」
五人一組で、六卓の調理台。
作る料理はパスタと肉料理の二種類。
参加している人の年齢はバラバラで、男性も居た。
僕は妙に親近感を覚えてしまう。
あっちこっちで手が挙がると、まずは僕が要件を聞いてお母さんに伝える。
僕は広いキッチンスタジオを駆け回る。
正直、こんなに体力勝負だとは思っていなかった。
パスタは手打ちで作る。
粉まみれになりながら奮闘している姿に、僕もワクワクして見入ってしまう。
みんなが楽しそうに作っているのを見て、僕も料理を極めたくなっていた。
🔸🔸🔸
「一緒に写真撮ってもいいですか?」
「はい?」
「先生、秋吉くんと写真撮る許可をお願いしますー」
「本人がOKなら問題ないですー。ね、秋くん」
「え、ま、まぁ」
「えー、私も撮りたい! こんなにイケメンくんと会う機会ないし」
「私もお願いします」
「こんなおばあちゃんでもいいかしら」
なんだかよくわからないうちに、僕との写真撮影会になっていた。
なんで? 僕は普通の高校生でアイドルでもなんでもないけど!
結局、半分ぐらいの人と写真を撮った。
撮った写真をどうするんだろう……
片付けが全て済み、生徒さんも帰って行った。
流石に僕も、緊張と走り回った疲れで、椅子から立てなくなっていた。
「ごくろうさま。大活躍だったね。お母さんの期待をはるかに上回っていて感動しちゃった。自慢の息子だわ」
お母さんに背中を軽く叩かれた。
「期待に応えられたなら良かったけど。疲れたーー。こんなに大変なんだね」
「まあ、慣れね。でもウチの生徒さんたちは皆さん、自主的に行動してくれるからこれでもかなり楽なほうなのよ」
「みんな、楽しそうに料理していたね」
「そうね、でも秋くんがあんなに人気者になるとは想定外だわ」
「全然わかんないよ。僕と写真撮っていいことあるの?」
「我が息子ながら、その無自覚さがこれから損をしないといいけど」
「どういう意味?」
「ま、いいから。さ、帰ろうか」
「それにしても、手打ちパスタで作るキノコのクリームソースって美味しいね。今度僕も作ってみようかな」
「橋上くんが遊びに来る時に作れば? 前に来た時、お母さんが作ったクリーム系のパスタを美味い、美味いって食べてたじゃない? 絶対気に入ると思う」
「そ、そうだね……」
圭斗の名前を聞いて、急に身体が熱くなった。
でも、僕もこのパスタを見た時に圭斗の顔が浮かんだ。
ガッツく姿と美味いの連呼。
許されるなら、食べさせたいな……そう思った。
🔸🔸🔸
日曜日、駅で圭斗と待ち合わせをした。
どこに行くのか決めていない。
正直、僕は昨日普段使わない筋肉を使って、疲れていた。
筋肉痛なんて久しぶりだ。
腕をほぐそうとぐるぐる回していると、誰かに当たった。
「あ、すみません!」
「イテッ! って俺だよーん」
「な、圭斗かよ」
「お前、人ごみで腕回すのは凶器だからな」
「ご、ごめん」
圭斗が俺の顔を覗き込むと、ニカーっと笑った。
してやったりの笑顔。
僕はその笑顔を見て嬉しくなっていた。
「で、今日はどうする?」
「行きたいところあるんだ。秋吉に付き合って欲しい」
「うん、いいよ」
圭斗が行きたいところってどこだろ?
なんだか僕は自分の足が地面からちょっと浮いているようなそんな気分になっていた。
駅から乗ったことが無い方面のバスに乗る。
今日も圭斗は田端先輩との話をしないのか、こちらから話を振ればするのか、僕は迷っていた。
隣に座る圭斗は外の景色を見ている。
睫毛長いな……
え、何言ってるんだ僕は!
ヤバっ! 落ち着け、落ち着け。
「ちょ、秋吉大丈夫か?」
「へ?」
「そんな頭振って、また頭痛か?」
「いや、なんか虫がいて……」
「は? 十二月に虫?」
僕は自分の中でかき消したいことがあると頭を振る癖があることを知った。
無意識って怖い……
「降りるぞ」
バス停の目の前には大きなスポーツセンターがあった。
「何、ここ?」
「いいから、いいから」
僕は前を歩く圭斗の後ろに着いていく。
広い館内では、多くの人がスポーツウェアを着て汗を流していた。
圭斗は脇には目もくれずに、まっすぐ歩いて行く。
小さなドアの前に着いた。
さっきまでの喧騒が嘘のように静かだ。
ドアを開けると、小さなトレーニングルームだった。
「ちょっと見ていて」
そう言うと、圭斗はおもむろにトレーニングベンチに座ると、怪我しているはずの左足で重そうなバーを何回も上げた。
「え! 治ったのか?」
圭斗は立ち上がるとランニングマシンに乗り、かなりのスピードで走り出した。
僕は呼吸を忘れたかのようにその場に立ち尽くし、そのうち震え出した。
「どう? 驚いただろ」
息せき切って、僕の前に立つ圭斗に、気が付けば抱き着いていた。
「すごいよ!すごい……」
言葉になったのは『すごいよ』だけだった。僕は何度もその言葉を繰り返していた。
「あ……」
圭斗が僕を強く抱きしめた。
僕は感動した勢いで抱き着いただけなのに、今、圭斗に強く抱きしめられている。
え……どうしよう。
「ありがとう。お前が俺のことずっと見てくれていたから頑張れ……」
圭斗の声が震えて、後が続かなかった。
「よく頑張りました」
僕が十センチ上にある圭斗の頭を優しくなでると、圭斗は僕の肩に顔を埋めて頷いていた。
「は、はじめまして。よろしくお願いします」
まさか挨拶するなんて聞いてない!
土曜日、お母さんの料理教室は人で溢れていた。
三十人もいるらしい。
僕はわかりやすいほどきょどって三十人の前で挨拶をした。
「イケメン!」
「わーうらやましいほど良いお子さんですね」
「先生、ご自慢の息子さんとやっとお目にかかれて嬉しいですわ」
拍手とともに、あっちこっちで声があがった。
僕はどう応えていいかわからず、ますます、きょどってしまう。
「みなさんのお手を煩わせないようにしますので、今日一日よろしくお願いしますね。では、始めましょうか」
五人一組で、六卓の調理台。
作る料理はパスタと肉料理の二種類。
参加している人の年齢はバラバラで、男性も居た。
僕は妙に親近感を覚えてしまう。
あっちこっちで手が挙がると、まずは僕が要件を聞いてお母さんに伝える。
僕は広いキッチンスタジオを駆け回る。
正直、こんなに体力勝負だとは思っていなかった。
パスタは手打ちで作る。
粉まみれになりながら奮闘している姿に、僕もワクワクして見入ってしまう。
みんなが楽しそうに作っているのを見て、僕も料理を極めたくなっていた。
🔸🔸🔸
「一緒に写真撮ってもいいですか?」
「はい?」
「先生、秋吉くんと写真撮る許可をお願いしますー」
「本人がOKなら問題ないですー。ね、秋くん」
「え、ま、まぁ」
「えー、私も撮りたい! こんなにイケメンくんと会う機会ないし」
「私もお願いします」
「こんなおばあちゃんでもいいかしら」
なんだかよくわからないうちに、僕との写真撮影会になっていた。
なんで? 僕は普通の高校生でアイドルでもなんでもないけど!
結局、半分ぐらいの人と写真を撮った。
撮った写真をどうするんだろう……
片付けが全て済み、生徒さんも帰って行った。
流石に僕も、緊張と走り回った疲れで、椅子から立てなくなっていた。
「ごくろうさま。大活躍だったね。お母さんの期待をはるかに上回っていて感動しちゃった。自慢の息子だわ」
お母さんに背中を軽く叩かれた。
「期待に応えられたなら良かったけど。疲れたーー。こんなに大変なんだね」
「まあ、慣れね。でもウチの生徒さんたちは皆さん、自主的に行動してくれるからこれでもかなり楽なほうなのよ」
「みんな、楽しそうに料理していたね」
「そうね、でも秋くんがあんなに人気者になるとは想定外だわ」
「全然わかんないよ。僕と写真撮っていいことあるの?」
「我が息子ながら、その無自覚さがこれから損をしないといいけど」
「どういう意味?」
「ま、いいから。さ、帰ろうか」
「それにしても、手打ちパスタで作るキノコのクリームソースって美味しいね。今度僕も作ってみようかな」
「橋上くんが遊びに来る時に作れば? 前に来た時、お母さんが作ったクリーム系のパスタを美味い、美味いって食べてたじゃない? 絶対気に入ると思う」
「そ、そうだね……」
圭斗の名前を聞いて、急に身体が熱くなった。
でも、僕もこのパスタを見た時に圭斗の顔が浮かんだ。
ガッツく姿と美味いの連呼。
許されるなら、食べさせたいな……そう思った。
🔸🔸🔸
日曜日、駅で圭斗と待ち合わせをした。
どこに行くのか決めていない。
正直、僕は昨日普段使わない筋肉を使って、疲れていた。
筋肉痛なんて久しぶりだ。
腕をほぐそうとぐるぐる回していると、誰かに当たった。
「あ、すみません!」
「イテッ! って俺だよーん」
「な、圭斗かよ」
「お前、人ごみで腕回すのは凶器だからな」
「ご、ごめん」
圭斗が俺の顔を覗き込むと、ニカーっと笑った。
してやったりの笑顔。
僕はその笑顔を見て嬉しくなっていた。
「で、今日はどうする?」
「行きたいところあるんだ。秋吉に付き合って欲しい」
「うん、いいよ」
圭斗が行きたいところってどこだろ?
なんだか僕は自分の足が地面からちょっと浮いているようなそんな気分になっていた。
駅から乗ったことが無い方面のバスに乗る。
今日も圭斗は田端先輩との話をしないのか、こちらから話を振ればするのか、僕は迷っていた。
隣に座る圭斗は外の景色を見ている。
睫毛長いな……
え、何言ってるんだ僕は!
ヤバっ! 落ち着け、落ち着け。
「ちょ、秋吉大丈夫か?」
「へ?」
「そんな頭振って、また頭痛か?」
「いや、なんか虫がいて……」
「は? 十二月に虫?」
僕は自分の中でかき消したいことがあると頭を振る癖があることを知った。
無意識って怖い……
「降りるぞ」
バス停の目の前には大きなスポーツセンターがあった。
「何、ここ?」
「いいから、いいから」
僕は前を歩く圭斗の後ろに着いていく。
広い館内では、多くの人がスポーツウェアを着て汗を流していた。
圭斗は脇には目もくれずに、まっすぐ歩いて行く。
小さなドアの前に着いた。
さっきまでの喧騒が嘘のように静かだ。
ドアを開けると、小さなトレーニングルームだった。
「ちょっと見ていて」
そう言うと、圭斗はおもむろにトレーニングベンチに座ると、怪我しているはずの左足で重そうなバーを何回も上げた。
「え! 治ったのか?」
圭斗は立ち上がるとランニングマシンに乗り、かなりのスピードで走り出した。
僕は呼吸を忘れたかのようにその場に立ち尽くし、そのうち震え出した。
「どう? 驚いただろ」
息せき切って、僕の前に立つ圭斗に、気が付けば抱き着いていた。
「すごいよ!すごい……」
言葉になったのは『すごいよ』だけだった。僕は何度もその言葉を繰り返していた。
「あ……」
圭斗が僕を強く抱きしめた。
僕は感動した勢いで抱き着いただけなのに、今、圭斗に強く抱きしめられている。
え……どうしよう。
「ありがとう。お前が俺のことずっと見てくれていたから頑張れ……」
圭斗の声が震えて、後が続かなかった。
「よく頑張りました」
僕が十センチ上にある圭斗の頭を優しくなでると、圭斗は僕の肩に顔を埋めて頷いていた。



