真直の嫁入り

 百貨店で服や帽子など、あれやこれやとそれはもう大量に買ったあと、やっと帰路につく。
 ちなみに、あまりにも買いすぎてしまったせいで結局荷物は車に入りきらず、配送になってしまった。

「もう、奥様。あれほど車に入るまでと申し上げたのに」
「そうは言っても、最近のお洋服の流行って可愛らしいものが多いからついつい欲しくなっちゃうのよ。それに真直さんはどれも似合うのだもの! 仕方ないわ」
「真直様のお買い物でしたけど、奥様が一番満足されてますよね〜」
「だって、娘の買い物をするのが夢だったのだもの! 夢が叶って満足だわ」
「そうだったんですか?」

 まさかそんな夢があったとは思わず、つい聞き返してしまう。すると、すぐさま奥様から「そうなのよ」と明るい調子で返ってきた。

「うちには息子しかいないでしょう? それもあってずっと娘に憧れていてね。だから、真直さんがうちに来てくれてとっても嬉しいのよ。もちろん、本当の母と思ってとかおこがましいことは言わないけど、それくらい慕っていただけたら嬉しいわ」
「そんな……とてもありがたいです。ありがとうございます。私も、奥様に自慢の娘だと思っていただけるように励みます」

 実母が死んでからというもの、こんな嬉しい言葉をかけてもらったことがなくて思わずじんわりと涙が滲む。
 すると、奥様はすぐに私にハンカチを渡してくださり、優しく背を撫でてくれた。

「こちらこそ、ありがとう。うちに来てくれたのが真直さんでよかったわ。……実はね、有馬のお嫁さんを選ぶに当たって、女学校の先生にいい方はいないかってお伺いしに行ったのよ。私も真直さんと同じ女学校出身なのだけど、奥山先生ってご存知?」
「あっ、はい。奥山先生には大変お世話になりまして、よく存じ上げております」

 奥山先生は主に家政関係の担当をしていた先生である。
 とても面倒見がよく、特に私に目をかけてくれて足りない昼食を分けてくださったり勉強を見てくださったりとよくお世話になった先生だった。

「その奥山先生が貴女のことをとても褒めてくださってて。裁縫の腕がよくて、物覚えがよくて、見栄えはいいし、謙虚で働き者で素晴らしい子だって。だから、もしかしたら早々に嫁入りしているかもしれないけれどと言われていたのだけど、今回無事に我が家とご縁が結べてよかったわ」
「……奥山先生が私のことをそんな風におっしゃってくださってただなんて」
「まっすぐに生きていたら、誰かしらがきちんと見てくださるものよ」
「……っ」

 奥様の言葉で母に言われたことを思い出す。

 __貴女の名前は真直。その名の通りまっすぐ嘘偽りのない生き方をしなさい。きっと誰かが見てくれるわ。だから、まっすぐただ前だけを向いて、貴女の思うままに生きなさい。

(ちゃんと誰かが見てくれている)

 母の言葉含めて、自分の今までの生き方が間違っていなかったのだと改めて実感して嬉しく思う。
 ただまっすぐ前向きに生きてきたことで、こんなにも素敵な縁に恵まれたことが何よりも嬉しかった。

「奥様、奥様。あまり奥様と真直様が仲良くなりすぎたら有馬様のお立場が」

 急速に深まっていく私と奥様の関係に、花が釘を刺す。
 そこで自分がただの義娘になりに来たわけではなく、有馬様の嫁として来たことを思い出す。

「あっ、そうよね。今回は有馬のお嫁さんということで来ていただいてるのだし。私が真直さんと仲良くしすぎたらいけないわよね。義理とはいえ、娘ができてつい嬉しくなってしまいすぎたわ。自重しないとね」
「あの、奥様。有馬様についてお伺いしてもよろしいですか?」

 そういえば、有馬様について何も知らないことに気づく。病弱で不治の病を患っていることしか知らないため、有馬様に会う前にどんな人物なのか知っておきたかった。

「有馬は……ちょっと捻くれているわね」
「え?」

 まさか第一声がそう来るとは思わず、つい困惑した声が漏れる。

「いえ、いい子ではあるのよ。優しくて、気遣いができて。でも、長く闘病しているせいか、だんだんと人の好意とかに対して負の感情を抱くようになってしまって。私達が色々と言ってもどうしても素直に受け取ってもらえなくてね。だから、真直さんには有馬に積極的に動いていただけるとありがたいわ」
「積極的に……わかりました。頑張ります」
「ありがとう。よろしくね」

 あまり自分から積極的にいくほうではないが、奥様にそう言われたら頑張ろうと思う。

「あっ、でもあまり気負いすぎてはダメよ。真直さん、どうしても気負ってしまいがちに見えるから。先程のはあくまで私の希望で、無理はしなくていいからね? 有馬と真直さんが仲良くできればそれでいいから」
「はい。ありがとうございます」

(有馬様と仲良く……なれるといいな)

 まだ見ぬ有馬様に想いを馳せつつ、女性四人たわいない話をしながら和気藹々と帰路を楽しむのであった。