その二の腕が俺を離してくれない!

 莱に気持ちを伝えてから、四ヶ月が経った三月半ば。莱の高校の卒業式を終えて一週間が経った今日は、莱の合格発表日だ。

「史くんっ! 史くん見てよっ! あった! あったって! ほら! 俺、史くんの後輩になれるってさ!」

 受験票を握りしめる莱は、合格発表の掲示板を指さして、ぴょんぴょんと飛び跳ねる。
 目鼻の整った顔に浮かぶのは、眩い太陽みたいな笑み。俺と天馬が恋人だと勘違いしていた頃のような陰りはもうどこにもなくて、ほっとした。

「おめでと、莱」
「うん。史くんのおかげ! ありがと!」

 昔から喜怒哀楽が分かりやすい莱は、もうにっこにこで、食べてしまいたいくらいに可愛い。それなのに、俺のせいで、自信を失わせてしまった半年間のことは、本当に悔やまれる。
 俺のことが好きなはずなのに、莱はいつも必死に気持ちを隠そうとぎゅっと唇を引き締めてた。離さまいと手を伸ばしても、苦しそうな顔で逃げ出そうとしたあの姿は、いまだはっきりと思い出せる。
 もう、絶対にあんな顔をさせたくない。

「莱。合格のお祝いに何か食べて帰ろっか」
「え? 何か?」
「うん。なんでもいいよ。ほら、前に行ったレストランでもいいし」
「んー……じゃあ、史くんちでサンドイッチ作って食べるのは?」
「え? サンドイッチ?」

 まさかのチョイスに拍子抜けして、瞬きを繰り返す。

「そ。受験の間、史くんがたまに夜食って、持ってきてくれてたじゃん?」
「うん」
「あれ。実はものすごく嬉しかったから、次は史くんに作ってあげたくてさ。俺、料理できないし、サンドイッチの作り方教えてよ」

 へへっとはにかむ姿はとんでもない破壊力だし、頭の中で「史くんに作ってあげたくて」という言葉がリフレインするし。周りには人がいるけど、もうそんなのお構いなしで抱きしめてしまった。
 あんなにスパルタで勉強させたってのに、俺を嫌うどころか、こんな反応するとか可愛すぎるだろ。

「あー、莱。なんでこんな可愛いわけ。そんなこと、ほかのやつには絶対言わないでよ。いい?」

 ぎゅうぎゅうと抱きしめると、莱は俺の腕の中で「えぇぇ?」と混乱したような声をあげる。
 でも、その声色は嬉しそうだし、莱を見れば顔がほころんでいて、たまらない気持ちになる。

(あー、やば。一生抱きしめてたい。他の誰にも見せたくねー)

 重いのは自覚済みだけど、不仲な両親のもとで育った俺にとって、莱はたったひとつの光なのだ。
 俺は年上だから、莱が追いかけてくれるのを待つしかできないけど。もう二度と莱を悲しませたり、不安にさせたりしたくない。莱が俺を求めてくれる限り、一生この身を捧げるつもりだ。
 たまらず、腕の中にいる莱をさらに力強く抱きしめる。

「愛してるよ、莱」

 この可愛い幼なじみをこれからもずっと愛で続けられるなんて、俺はなんて幸せ者なんだろう。

END.