その二の腕が俺を離してくれない!

 高二の三月半ば。俺──長谷部(はせべ)(らい)は、お隣に住む二つ年上の幼馴染(男)に失恋した。

 正直、俺が失恋するとか、考えたことがなかった。
 なんたって俺は、美人の母さんに似てすこぶる顔が良いし、(ふみ)くんもとにかく俺に甘い。

「莱はほんと僕の癒し」
「今日はもう、莱から離れたくないなあ」
「僕以外にそんな可愛い顔しちゃだめだよ」

 なんて、史くんは甘い言葉を惜しみなくくれるのだ。
 しかも、俺を抱き枕にしてくるし、恋人みたいにめちゃくちゃ甘い顔して膝枕までしてくれるし。
 おかげで、俺の自己肯定感なんて、もう爆上がり。こんなん絶対両想いだろ! って信じて疑わなかった。

 だから、史くんと同じ大学に行くっていうモチベに「受験が終わったら付き合って」──って、告ろうとしたってのに。
 この気持ちは、俺の一方通行だったらしい。

 あの日、史くんに会いに大学まで行ったら、近くのコンビニ前で、男に抱きしめられてる史くんがいた。
 相手は大人の色香をまとう、精悍な顔つきの男前。
 その人が「史、愛してる!」と言う腕の中で、史くんも「僕も」と微笑みながら、腰に手を回していた。

「……へ?」

 口からすっとぼけた声が出ると共に、頭が真っ白になった。
 何せ、長きに渡る片想いの、あっけない幕引きだ。
 るんるん気分で会いに行ったってのに、まさか史くんに恋人がいたとか笑えない。
 てか、やばい。両想いが勘違いだったとか、クソダサすぎる。普通に恋人みたいに甘えてたとか、史くんに合わせる顔がない。
 心臓はぎゅうぎゅうと痛むし、目の前がぼやけてくるし。立っているのも難しいほど、足が震えた。
 
「……消えてなくなりたい」

 ずるずると歩道にしゃがみ込みながら、普段じゃ絶対に言わない言葉が口から突いて出た。
 だから、涙で顔をぐしょぐしょに濡らしながら、俺は決めたんだ。
 史くんから、離れようって。
 受験に集中してたら、きっと史くんのことも忘れられるって──……。

 でも、あれから半年。高三の九月になって、今さら俺の家に史くんが押しかけてくるとか。
 ましてや、俺の部屋で壁ドンならぬ、椅子ドンしてくるとか、いったい誰が想像できるか。

「なあ、莱。何を勝手に()から離れようとしてんの(・・・・)?」

 キラキラと輝く王子様みたいな史くんはどこへやら。
 怒りを必死に押し殺すような史くんが、俺の心をひどくざわつかせた。