第9話 文化祭
文化祭の日。
学校はいつもよりずっとにぎやかだった。
廊下には飾り付け。
教室からは楽しそうな声。
俺――奥本淕怕は、クラスの出し物を一通り終えて廊下に出た。
そのとき。
「奥本」
後ろから静かな声がする。
振り向くと、安藤琥怕が立っていた。
「終わった?」
「さっきな」
「安藤は?」
「今終わった」
少し沈黙が流れる。
すると安藤が言った。
「奥本」
「ん?」
「一緒に回る?」
「文化祭」
少し意外だった。
安藤から誘うのは珍しい。
でも。
「いいけど」
そう答えると、
安藤は少しだけ嬉しそうに笑った。
「よかった」
二人で校内を歩く。
クレープの店。
お化け屋敷。
いろんなクラスの出し物。
いつもより安藤がよく笑っていた。
「奥本」
「ん?」
「楽しいね」
「そうだな」
そんな会話をしながら歩く。
そのとき。
クラスの女子が声をかけてきた。
「奥本ー!」
「今ヒマ?」
「ちょっと手伝ってほしいんだけど」
俺が答えようとすると。
横から安藤が言った。
「今、無理」
静かな声だった。
女子が少し驚く。
「え?」
安藤は続ける。
「奥本と回ってる」
「あとにして」
その言い方は落ち着いてるけど、
はっきりしていた。
女子は少し笑った。
「そっか、ごめんね」
そう言って去っていく。
俺は安藤を見る。
「また追い返したな」
「うん」
「なんで?」
聞くと、
安藤は少し考えてから言った。
「……だって」
少しだけ俺を見る。
「今、奥本は俺といるから」
その言葉に、
胸が少しだけドキッとする。
そして俺は気づき始めていた。
最近、
安藤といる時間が
一番楽しいってことに。


