歌声のとなりで


第5話 近すぎる距離

放課後の音楽室。

今日も俺――奥本淕怕は残っていた。

理由はもちろん、合唱の練習。

そして。

「奥本」

窓際から静かな声がする。

安藤琥怕だった。

「今日も練習する?」

「するんだろ」

そう言うと、安藤は少しだけ笑った。

「うん」

もう自然に二人で残るようになっていた。

楽譜を開く。

昨日と同じ場所に並ぶ。

「ここ」

安藤が指を楽譜に置く。

そのとき、指が少しだけ俺の手に触れた。

「……」

なぜか少しドキッとする。

「この部分、もう一回」

安藤は気づいていないみたいだった。

二人で歌う。

音楽室には、声がきれいに響く。

歌い終わると、安藤が少し近づいた。

「奥本」

「ん?」

「さっきのとこ」

「もう少し声出してみて」

距離が近い。

顔も近い。

「……わかった」

少しだけ後ろに下がろうとすると、

安藤が言った。

「奥本」

「何?」

「逃げてる?」

「は?」

思わず見ると、

安藤は少しだけ笑っていた。

「冗談」

でもその目は、少し真剣だった。

そのとき。

音楽室のドアが開く。

「おー、また二人で練習?」

クラスの女子だった。

「奥本、真面目じゃん」

そう言って、俺の隣に来ようとする。

でも。

その前に。

安藤が一歩前に出た。

静かな声で言う。

「今、練習中だから」

「……あとにして」

女子は少し驚いた顔をした。

「ご、ごめん」

そのまま出ていく。

ドアが閉まる。

俺は安藤を見る。

「追い返したな」

「うん」

「なんで?」

安藤は少し考えてから言った。

「……奥本と歌ってたから」

その言い方が、なぜか少しだけ

独占欲みたいに聞こえた。

「奥本」

「ん?」

「続き、歌お」

静かな声。

でもどこか嬉しそうだった。

俺は楽譜を見る。

そして思う。

最近、放課後になると

安藤のことばかり考えてる気がする。