歌声のとなりで


第4話 二人きりの練習

放課後の音楽室。

窓から夕方の光が差し込んでいた。

教室とは違って、ここは静かだ。

残っているのは――

俺と安藤だけ。

「……ほんとに二人なんだな」

思わず言うと、

安藤琥怕は小さく笑った。

「うん」

ピアノの近くに立ちながら、楽譜を開く。

「少しだけ練習しよ」

「本気だな」

「うん」

安藤は真面目にうなずいた。

「優勝したいから」

そう言って、俺の隣に立つ。

距離が近い。

昨日よりも、ずっと近く感じる。

「ここ」

安藤が楽譜を指さす。

「この部分、アルト大事だから」

「一緒に歌ってみよ」

ピアノの音をスマホで流す。

二人で歌う。

音楽室には、俺たちの声だけが響く。

歌い終わると、安藤が少しだけ笑った。

「やっぱり」

「奥本と歌うと歌いやすい」

「そうか?」

「うん」

少し沈黙が流れる。

そのとき。

廊下から声が聞こえた。

「奥本ー?」

クラスの男子だった。

「帰るぞー」

俺が返事しようとすると――

横から安藤が言った。

「奥本、まだ練習する」

静かな声だった。

でも、はっきりしていた。

廊下の男子が笑う。

「おー、頑張ってんなー」

足音が遠ざかっていく。

そして音楽室はまた静かになる。

俺は少し笑った。

「追い返したな」

すると安藤は、少しだけこっちを見た。

「……奥本」

「ん?」

「もう少しだけ」

「一緒に歌って」

その声は静かだけど、

どこか真剣だった。

「……いいけど」

そう答えると、

安藤は少しだけ嬉しそうに笑った。

「ありがとう」

その笑顔を見たとき。

なぜか胸が少しだけ

ドキッとした。

まだその理由は、

よくわからなかったけど。