歌声のとなりで


第3話 同じパート

次の日の放課後。

音楽室には、クラスの合唱練習の声が響いていた。

「今日はパート分けするぞー」

音楽の先生が楽譜を見ながら言う。

ソプラノ、アルト、テノール、バス。

順番に名前が呼ばれていく。

俺――奥本淕怕は、たぶんバスだろうと思っていた。

でも。

「奥本、アルト」

「え?」

思わず声が出た。

女子が多いパートだと思っていたからだ。

「声質的に合うと思うからな」

先生はそう言う。

まあ、歌えればいいけど。

そのとき。

「安藤、アルト」

……え?

思わず横を見る。

安藤琥怕も同じパートだった。

安藤は一瞬だけ驚いた顔をしたけど、
すぐに小さく笑った。

「同じだね」

静かな声だった。

「……そうだな」

並ぶ位置も、自然と隣になる。

ピアノが鳴る。

クラス全員で歌い始める。

そのとき。

「奥本」

横から小さな声。

「ここ、一緒に入ろ」

安藤が楽譜の一か所を指さす。

距離が近い。

思ったより、声も近くで聞こえる。

「わかった」

歌いながら、なんとなく気になる。

安藤の声は静かだけど、
きれいでよく響く。

練習が終わるころ。

友達が声をかけてきた。

「奥本、今日部活?」

「今日はない」

そう答えると、

横から静かな声がした。

「奥本」

安藤だった。

「今日、練習するって言ったよね」

あ。

昨日の保健室の約束。

「放課後」

安藤は続ける。

「少し残れる?」

「合唱」

「……二人で」

友達がニヤニヤする。

「おー、奥本モテてる」

「違うって」

そう言うと、

安藤は少しだけ眉を下げた。

「……嫌?」

小さく聞く。

その声が、少し寂しそうで。

「いや、行くよ」

そう答えると、

安藤はほっとしたように笑った。

「よかった」

放課後。

クラスのみんなが帰っていく。

音楽室に残ったのは——

俺と安藤の二人だけだった。

そのとき、俺はまだ気づいていなかった。

この放課後の時間が

これから

俺たちの距離を大きく変えることになるって。